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韓国人シンガーKが日本の伝統を旅する。「子供を育てるように味を守る」料理人たち

第8回 滋賀伝統食 鮒寿司「魚治」左嵜謙祐さんと鯖棒寿司「すし慶」安達和慶さん

 

地元木之本の水や空気、
風土が生きる鯖の棒すし

 日本海側の漁港から内陸へと多くの鯖が運ばれた歴史によって、福井県小浜市と京都府京都市を結ぶ若狭街道が“鯖街道”と呼ばれている。そして、第2の鯖街道が滋賀県長浜市木之本にあった。1912年、大正元年に創業されたすし慶を訪れたKさんを迎えてくれたのは、4代目・安達和慶(あだち・かずよし)さんだ。

 

 

K 歴史があるお店なんですね。
安達 私の曾お祖父さんの代から続いています。初代が大阪で修業し習得した鯖の棒すしをリヤカーに積んで売り歩いたことがお店の原点なんですよ。
K 鯖寿司というと鯖街道を思い出すんですよ。福井から京都へと繋がる鯖街道がありますよね。木之本にも昔から鯖が流通していたんですか?
安達 小浜から琵琶湖を挟んで京都まで続く街道がいわゆる鯖街道と呼ばれていますが、こちらへ続く北国街道もまた第2の鯖街道と言われているんですよ。昔から福井県若狭の鯖が、北国街道を通り入ってきたんです。なので、鯖すし作りという文化が北国街道にも残っているんです。

 

K 日本海から内陸へ入ってくるのに、昔はどれくらいの時間がかかったんでしょうか?
安達 そうですね。「ひとしお」という言われ方をするのですが、「京都についたころには、ひとしおでちょうど美味しい頃合いになっている」と。だから1日から、1日半くらいかかったんじゃないですかね。
K じゃあ、北国街道の鯖も同じような感じで運ばれたんですね。作り方を教えてください。
安達 鯖を職人が一匹一匹さばきます。さばき終わるとすぐに塩と御酢でしめます。今は長崎から鮮度の良い鯖が届きます。

 

K 酢飯のなかに入っている粒はなんですか?
安達 山椒の実です。これがうちの鯖寿司の特長なんです。新鮮な鯖で作っているので、それほどの臭みはないのですが、山椒の実が入ることで、口のなかに爽やかな香りが広がって、美味しいですよ。
K 山椒はどの鯖寿司にも入っているんですか?
安達 鯖寿司で山椒が入っているのはうちだけだと思います。これは代々受けつがれた味として、地元でとれた山椒の実をご飯にまぜてつくったのが始まりで、珍しいとは思います。
K 出来上がったお寿司に昆布を巻いていますが、これは?
安達 白板昆布と言いまして、おぼろ昆布をすいたあとの昆布の芯を酢で炊いたものです。鯖すしに限らず、ばってらなどにも昆布が巻いてあるんですが、鯖が乾かないように工夫した結果なんですよ。
K すごい、色味もすごい綺麗ですね。分厚いというか。素敵だなぁ。美味しい。鯖の脂身も全然しつこくないし。この山椒、結構効いてますね。この山椒の使い方は衝撃的で、美味しいです。
安達 お米も地元のモノを使っています。木之本の風土といいますか、水とか土地の味が鯖寿司に出ているんだと思います。
K 安達さんにとって、鯖の棒すしはどういう食べ物なんでしょうか?
安達 物心がついたときから、鯖の棒すし作りが生活のなかにありました。小さいころからずっとお祖父さんが鯖の仕込みをしているのを見てきた。だから、その家業を当たり前に受け入れていたわけです。でも、今、自分が作っているこの味が、代々続いた味だったんだなと改めて実感しています。
 

 

K 家族の味というか、ここでしか作れないものなんでしょうね。この味を守っていくことについて、どう考えていますか?
安達 代々、曾お祖父さんから受け継いだ味ですので、素材の良いものを取り揃えて作っていますが、やっぱり地元でとれるお米やお美味しいお水を使って作るという部分は変えてはいけないと思っています。鯖すしを作る工程も同じ。いろんな作り方があると思うんですが、うちの代々受け継がれた作り方、加工の仕方があるので、それは、受け継いで、時代が変わろうとも作り続けていきたいと思います。

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寺野 典子

てらの のりこ

1965年兵庫県生まれ。ライター・編集者。音楽誌や一般誌などで仕事をしたのち、92年からJリーグ、日本代表を取材。「Number」「サッカーダイジェスト」など多くの雑誌に寄稿する。著作「未来は僕らの手のなか」「未完成 ジュビロ磐田の戦い」「楽しむことは楽じゃない」ほか。日本を代表するサッカー選手たち(中村俊輔、内田篤人、長友佑都ら)のインタビュー集「突破論。」のほか中村俊輔選手や長友佑都選手の書籍の構成なども務める。


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