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「平成」の次は? 新しい元号はどのように決まるのか

天皇の生前譲位問題におけるさまざまな疑問を解決

「平成」はどのように決まったのか

 この新元号は、午後二時ころ、一方で官邸から皇居へ連絡して今上陛下に上奏され、「政令」公布に必要な書類が宮内庁へ運ばれて、「明仁」という御名の染筆と「天皇御璽」の金印を押す手続きが進められました。他方、それと併行して、首相官邸から小渕官房長官が、「平成」という二字を筆書きした額を掲げながら、次のように公表しています。

「新しい元号は「平成」であります。これは、『史記』の五帝本紀、及び『書経』の大禹謨(だいうぼ)中の「内平かに外成る」(史記)「地平かに天成る」(書経)という文字の中から引用したものであります。この「平成」には、国の内外にも天地にも平和が達成される、という意味がこめられており、これから新しい時代の元号とするに最もふさわしい元号であります。」

 この時の光景は、40歳代以上の方々なら覚えておられるでしょうが、特に私は決して忘れることができません。実は学部の卒業論文以来「年号(元号)」に関心をもち、昭和54年(1979)に「元号法」が成立する2年前、『日本の元号』(雄山閣出版)と題する小著を出しています。

 そのためか、同62年9月に昭和天皇が手術入院されたころから、いろいろ問い合わせを受け相談に応じていました。とりわけNHKから、万一の場合、改元の特別報道番組で解説の手助けを依頼され、翌63年9月の大量吐血以降、ほとんど東京に逗留することを余儀なくされました。

 そして翌64年1月7日当日、正午からスタジオに入り、ベテランのアナウンサーと年号の来歴などについて話をつないでいたところ、首相官邸からFAXが届きまして、そこで初めて新元号が「平成」であり、その出典が『史記』と『漢書』だということを知りました。従って、咄嗟に感想を求められても、うまく答えられませんでしたが、感じたままを話したように憶えています。

 この「平成」という元号は、よい意味をもつものであり、「漢字二字である」だけでなく「書きやすい」「読みやすい」ことは、一見して明らかです。

 また「これまでに元号又は諡号として用いられたものではない」「俗用されているものでない」ことは、十分に精査されていました(念のため、岐阜県武儀郡に「平成」という地区名のあることを後で知りましたが、これは「へなり」と訓みます)。さらに元号をイニシャルで示す場合、「へいせい」はHですが、「めいぢ」のM、「たいしょう」のT、「しょうわ」のSと重ならないことも、事前に考慮して選ばれたと思われます。

 とりわけ出典の『史記』にみえる「内平外成」は、舜という伝説上の聖帝が、人材を登用して政治と教育にあたらせたところ、家や国の内も外も整い平和になった、という逸話に出てくる四字句です。

 また『書経』にみえる「地平天成」も、舜の抜擢した禹(夏の始祖)が、五穀を実らせ生活を豊かにすれば「地も天も穏かに治まり平和になる」という逸話に出てくる四字句です(この両方が『春秋左氏伝』にもみえます)。
 
 いずれにしましても、「平成」という二文字が「平和の達成」という永遠の理想を表明していると解釈することは可能です。とすれば、これこそ「国民の理想としてふさわしいもの」だと思われます。

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所 功

ところ いさお

名古屋大学史学科・同大学院修士課程卒業。法学博士(慶大)。文部省教科書調査官を経て、京都産業大学名誉教授、モラロジー研究所研究主幹。著者に『皇位継承のあり方』(PHP新書)など、共著に『元号』『皇位継承』(ともに文春新書)など、編著に『日本年号史大辞典』(雄山閣)など。


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