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柳美里・独占インタビュー「都会の若者は交換可能な存在である」

南相馬で暮らすという選択肢

来春開校する福島県立小高産業技術高校の校歌の作曲を長渕剛さん、作詞を柳美里さんが手掛けることが発表されました。最新刊『人生にはやらなくていいことがある』(ベスト新書)を刊行した柳美里さんが語る、「福島・南相馬に暮らすこと」とは――?

経済原則とは違う軸で暮らしている地域がある

―― 柳美里さんが福島県南相馬市に移住されて1年と8カ月ほどが経ちますが、もうこちらの生活には慣れましたか?

写真/小野田桂子

 私は2012年3月16日から臨時災害放送局「南相馬ひばりエフエム」で「ふたりとひとり」というラジオ番組のパーソナリティを務めています。11月11日の放送で第228回、毎回おふたりの方にご出演いただくので、約450人のお話を伺ったことになります。そういう意味では、引っ越す前から知り合いが多かったし、あらかじめ暮らしぶりはわかっていました。

 ただ、こちらに通うことと、こちらで暮らすことには大きな隔たりがあります。生活をするということは、食材を買いに行ったり、自分で料理を作ったり、クリーニングを出しに行ったり……通っているときには見えなかった生活の実相のようなものが見えてきます。

 

―― 住んでみなければわからないということですね。全く見え方が変わりましたか?

 たとえば、私の家の近くにある「山田鮮魚店」という魚屋さんは、魚が傷むからという理由で切置きをしないんですね。客が大きめの皿を持っていって「マグロを多めにして5人前お願いします」なんて言うと、その場で刺身を切ってくれるんです。カツオとかマグロの大トロとか地元のホッキ貝とか、そのときどきのおいしい魚介類を6種類ぐらい盛り合わせてくれるし、値段も非常に良心的です。あるとき、「なんでそんなに手間暇をかけるんですか?」と訊いたら、「地元の方は舌が肥えているから手抜きはできない」とおっしゃるわけです。

 南相馬は、経済原則とは違う軸で暮らしが続いてきた地域なんですね。そういう地域で暮らすというのは、私にとって得難い経験です。

 

――「経済原則とは違う軸」というのは、お金を求めずに生きているということですか?

 そうですね。私は10代半ばで演劇の世界に入り、20代半ばで小説に軸足を移しました。書くことを仕事に選んだのは18歳のときで、今年でちょうど30年になります。書く以外の職業に就いたことはないし、アルバイト経験も皆無です。今まで付き合った人と言えば、劇作家、演出家、舞台スタッフ、俳優、映画監督、ミュージシャン、写真家、イラストレーター、小説家、フリーランスライター、編集者、新聞記者、テレビのディレクター、プロデューサー、撮影スタッフ、ニュースキャスター、女性アナウンサーなど限られた職種の人たちだったんです。彼らは成功を目指すじゃないですか。
 でも南相馬に来ていただければ一目瞭然ですが、この町には大きな成功はないんですよ。どこも個人商店で、小さい規模の商いを営々と続けていて、大きく儲けようとは思っていない。

 どうしても田舎に行くと「都落ち」「敗者」というイメージを持たれがちです。ひと昔前は、優秀な子たちは田舎から都会に出て、故郷に錦を飾ることを目標にがむしゃらに働きました。そして、都会で成功して一旗揚げる人もいれば、失意のうちに帰郷する人もいたわけです。でも今は違うのではないでしょうか。
 都会では、若者たちは一流企業に入ろうが、派遣社員だろうが、フリーアルバイターだろうが、交換可能な存在です。でも、田舎では切実に必要とされているわけです。都会ではなかなか誰かから必要とされるということを実感できないのではないでしょうか。南相馬にかぎらず田舎で暮らすという選択肢はアリだと思います。

芥川賞作家・柳美里、最新刊『人生にはやらなくていいことがある』(ベスト新書)の刊行を記念して「柳美里新聞」を発行、全国書店にて配布中!!
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柳 美里

ゆう みり

1968年生まれ。高校中退後、東由多加率いる「東京キッドブラザース」に入団。役者、演出助手を経て、86年、演劇ユニット「青春五月党」を結成。93年『魚の祭』で岸田國士戯曲賞を最年少で受賞。97年、『家族シネマ』で芥川賞を受賞。著書に『フルハウス』(泉鏡花文学賞、野間文芸新人賞)、『ゴールドラッシュ』(木山捷平文学賞)、『命』、『8月の果て』、『雨と夢のあとに』、『グッドバイ・ママ』、『JR上野駅公園口』、『貧乏の神様』、『ねこのおうち』、『まちあわせ』他多数。

写真/大森克己



 

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  • 柳 美里
  • 2016.12.10