仏教マンガのリアルさ

IIIの代表作と言えば、僧侶の性と老病死、寺の家族と檀信徒との関係など、リアルに描ききった朔ユキ蔵『お慕い申し上げます』(全6巻)が真っ先に挙げられるが、他にも若き尼僧が虐待問題を抱える親子と向き合う竹内七生『住職系女子』(全6巻)、僧侶にして外科医でもある主人公が救急医療の現場で生死と向き合い煩悶するこやす珠世『病室で念仏を唱えないでください』(連載中)など、現代の僧侶が悩み続けるところにこのカテゴリーの傾向がある。

一般的に、僧侶という存在は、肉を食べる、酒を飲む、高級車の乗るといったいかにも俗っぽいことをすると、「坊さんのくせに、煩悩だらけだな・・・」と批判の的となる。これは裏を返せば、一般人と同じような俗っぽい行いをしないことで、僧侶は煩悩を断ちきった存在として社会的な聖性を保つということでもある。しかし、ここに挙げた主人公達は、煩悩を断ちきって心が平安の境地に安住するどころか、悩みの渦に巻き込まれまくる。そう、坊さんのくせに、煩悩だらけなのだ。

しかし、これは当たり前のことでもある。僧侶も人間なのだ。人間であるが故に悩み苦しむ。では、僧侶と一般人のどこに違いがあるのかというと、その苦悩との向き合い方である。そもそも仏教とは、誰もが体験をするような人生の苦(自分の思い通りにならないこと)と真正面から向き合い、なんとかしていくための考え方と方法論について、お釈迦さまが説いたものである。そこで、それらに則って人生を歩む人々のことを“僧侶”と呼ぶわけであるが、仏教マンガの主人公たる僧侶たちが、紆余曲折しながら苦悩との向き合う姿に、読者である我々は共感し、共に考え、共に苦しむのである。

今後の仏教マンガの流れ

ちなみに、本稿を書いている時点で最新の仏教マンガは何かというと、かねもりあやみ『サチのお寺ごはん』(連載中)であろう。これもカテゴリーとしてはIIIに属する。ただ、先ほどの3作品とは違い、登場する僧侶は苦悩しない。主人公は僧侶ではなく、薄幸で悩みの多い若いOLで、乱れた食生活を送っており、料理僧でもある僧侶の精進料理に触れて食生活を調え、同時に人生も前向きに調えていくというストーリーである。この作品で主人公は、僧侶との交流を通して悩みを解決していく。つまりこれは、表面的にはOLの姿として描かれてはいるが、その実主人公は、師匠役の僧侶の弟子という位置づけに他ならず、構造的にはもう一人の僧侶といっても過言ではない。

このように、現在の仏教マンガは多様化し、現在も変化し続けている。発行数の推移のグラフを見れば、2010年から2015年現在までのたった6年間で2000年代のタイトル数を超え、一般マンガ雑誌にて連載が長く継続するため累計冊数も伸びている。2010年代は、あと4年あるので、さらに数字を重ねることになるだろう。今後の展開が楽しみである。

最後に

バブル崩壊以降、長期にわたって不景気であるにもかかわらず、一般出版社から仏教マンガが多く発行され続けている現象について考察したい。先にも述べたが、経済原理に則って発行する以上、売れる商品と見なされていることに異論はないだろう。では、なぜ一般的な読者に受け入れられると判断されるのだろうか。

よくある言説では、不景気や自然災害などが重なり、社会が慢性的に不安定の中、何かしらの救いを求める、もしくはブレのない精神的支柱を持とうとする傾向が増したと説明される。確かに、東日本大震災の被災地で支援に尽力する僧侶たちの姿が広く報道され、伝統的な仏教への期待がにわかに高まってはいるだろう。しかし、バブル絶頂期にも一般出版社から2000年代と同程度の発行があったことを思えば、これに関する言説としてあまり説得力があるとは言えない。であれば、何がポイントとなるのか。

少し古い情報だが、2012年2月17日に東京大学で開催された第11回文化資源学フォーラム「寺カルチャー ? 仏教趣味のいまを視る」のシンポジウムで、現在の仏教ブームを支える若い人たちは、「仏教を抹香臭いと思うのではなく、自分にとって未知のものと思う感覚」ゆえに新鮮さを持って受け入れられているのではないか、といった指摘がなされている。僧侶がインターネットを駆使して積極的に仏教の素晴らしさや面白さについて発信する今日、普段法事で関わるお寺さん以外の“仏教”に触れる機会が増えれば、それは確かに新鮮に映るに違いない。しかも、同世代の若手僧侶たちが相手となれば尚更だ。インターネット時代にあって“若手僧侶”の存在に世間が気づき始め、そんな彼らからは自分たちとはちょっと異なる世界観が垣間見え、何だかよく分からない存在な分だけ、好奇心がくすぐられるといった具合である。つまり、マンガのモチーフとして仏教や僧侶は、申し分のない素材なのだ。

また、現在量産されているIIIを描くのは主に一般出版社の作品である。つまり、「対人関係」「仕事」「生死」「恋愛」などの問題に共感を呼べるだけの、多種多様な悩みの渦中に多くの人がいるということでもある。おそらくあなたも、例外ではないだろう。ここは一つ、仏教マンガの世界に足を踏み入れてみてはいかがだろうか。

※本稿のグラフで示した数値は、現時点での私ができる限り調べた結果であり、これらに反映されていない作品もどこかにあることはご承知頂きたい。また、年代別に集計する際、複数巻発行の作品やシリーズ物に関しては、コンセプトを打ち出して動き始めたという意味で第1巻の発行年にまとめている。