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10年目の草食系男子は社会の何を変えたか?

現在観測 第12回

ティーンにいまだ蔓延する「男らしさ」信仰

男らしさの放棄は大人の社会では次第に進む一方、価値観の多様化がまだ顕著ではなかったティーン時代では、男性の自己肯定感を下げる男らしさの考えが数多く残っており、その被害に遭った人も少なくありません。

たとえば、スクールカーストがコンプレックスとして深く刻み込まれ、自己の欲求を変にこじらせてしまった人も多くいます。体型に関して言えば、身長の低い人ほど筋トレをしてマッチョを目指す人が多いのは、芸能人でもよく見られる現象です。大学デビューや社会人デビューをして派手に女性遊びをしてしまうのも、心の中にそれまで受けてきた抑圧の反動がある可能性が高いと思われます。なお、近年は過激なモテ理論やナンパ理論に陶酔する男性も増えているのですが、彼らもコンプレックスをかなり強くこじらせているように感じます。男らしさという権力の弱体化は喜ぶべきことですが、逆にこのような過激派が生じている様子は、まるでアラブの春の後に起こっている社会の不安定化を見ているようです。

「男らしさ」の放棄が生きやすい社会につながる

そもそも、男性は幼い頃から女性以上に「外見」で評価されてきました。ここで言う外見というのは、容姿のことではなく、成績、学歴、経済力などの形式的な評価基準のこと。国家の構成単位としての家族を築く担い手として期待され、「男なんだから」と他人に相談することや弱音を吐くことが許されず、常に誰かと比べられ、努力しなければ自己責任とされて育ってきた。これでは自己肯定感を得られるはずがありません。ですから、自己肯定感を育まれなかった人ほど、何の努力も無くして得られる「男性」という属性にすがるしかなくなってしまうのです。インターネット上ではアンチフェミと言われる男性たちがしばしば女性批判を繰り広げているのですが、彼らはその典型例だと言えるでしょう。

また、小学生の頃に、女性の先生から「女の子は良い子」「男の子はダメな子」という見方をされて、自尊感情を傷付けられた男性もいるのではないでしょうか。ですが、これはその先生個人が悪いわけではなく、先生もまたミソジニー(女性嫌悪)な社会からの抑圧を受けているからミサンドリー(男性嫌悪)を患い、その矛先を男子生徒に向けてしまう。ミソジニーが完全にシステム化してしまっており、それがまた男性自身をも苦しめるという悪循環を生んでいるのです。

ただ、これを裏返せば、ミソジニースパイラルを停止させ、真の男女平等社会を進めて行けば、男性の生きづらさも解消されて行くということではないでしょうか?冒頭に例としてあげた女装男子たちを見ても、ミソジニーや男らしさと決別したその様子は、本当に「男の生きづらさ」から解放されているように見えます。また、女性の自立が進めば、男性が国家や社会の被支配者として負わされる抑圧も軽減されるわけです。実際、仕事と家事育児の両方を自己の責任で全うできているカップルほど依存心は弱く、やはり「男の生きづらさ」からは解放されているように感じます。

今度10年はさらに男らしさの放棄と男女平等が進み、男性にとってもより生きやすい社会が待っていることでしょう。是非読者の方々とその先頭を一緒に歩んで行きたいものです。

 

 

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勝部 元気

かつべ げんき

ー論、現代社会論、コミュニケーション論、男女関係論が専門。現在は雑誌やwebマガジン等を活動の場としている他、女性の活躍を目指す企業に向けてリプロダクティブヘルス・ライツの視点から経営支援を行う株式会社リプロエージェント代表取締役CEOを務めるなど、各種社会事業に携わっている。



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