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僕らが料理をする理由

現在観測 第7回

 冷凍庫もオーブンも電子レンジも広く普及し、新たな調理法も数多く紹介され、同時に料理研究家という職業が「女性の職業」の選択肢のひとつとして認識され始めた。また、後にバブルと呼ばれる好景気も到来した時代で、巷ではイタリア料理等の日常的な料理が紹介されはじめ、それを自宅で再現したいという世間の要望から、それまでと違った形でのごちそうが提案されるようになった。

 そして昭和56年=1981年に生まれた私。幼い頃から自然と料理をつくるようになり、紆余曲折を経て母のアシスタントを務め、本格的にデビューしたのが2008年。「失われた20年」と呼ばれる不況の真っ只中のこの時代、日常的に料理をつくるという行為は、男性でも当たり前となり、一昔前に「男子厨房に入らず」という言葉は死語となっていた。

 その頃2009年の流行語大賞にもノミネートされたのが「弁当男子」であった。弁当というのは自宅の外で食べる「自分の家の料理」である。別の言い方をすれば、自分の料理を外に持ち出す行為であり、自分の料理を発表する機会のひとつである。

 それまでも自分で作った料理を弁当として外に持ち出す男性は存在したと思うが、それが飛躍的に注目されたのが、ブログやSNSの一般化と同じタイミングではないかと推察する。以前はホームパーティでもない限り、自分の料理の腕を見せられなかったのが、弁当というフォーマットを使えば身近な人間にアピールできる。更にネットを使えば、より広範囲の人々に発表できる。いわゆる「承認欲求」を満たす行為として料理のある側面が注目されたのではないかと思う。これは当然男性だけでなく、女性ももちろんで、料理ブロガーの誕生もそうだし、クックパッドなどのレシピサイトの台頭も必然と言える。

 3世代で料理研究家として活動している我が一族だが、時代の変化とともに活動は変化していく。

 料理という生活に密着した要素に携わる以上、今後も時代の変化と併せて活動内容も変容していくだろう。ただ、どんな時代でも、自分の大切な人に美味しく栄養のある食事を提供したい、という気持ちは変わらないだろう。いつまでその気持を忘れないで邁進したいと思う。

 

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きじま りゅうた

1981年 東京生まれ。

祖母は料理研究家の村上昭子、母は同じく料理研究家の杵島直美という家庭に育ち、 幼い頃から料理に自然と親しむようになる。

立教大学卒業後、アパレルメーカー勤務を経て 料理研究家の道を目指す。杵島直美のアシスタントを努めて独立。

趣味はサーフィン、ブラックミュージックを中心とした音楽鑑賞。 現在、書籍、雑誌、Web、テレビを中心に活動中。


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