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なぜ、気持ち悪いオタクはいなくなってしまったのか?

深夜アニメはもうオタクだけのものではない

「オタク」はスティグマからステータスへ 

 かつて「オタク」であることは、ステータスとなるどころか、かなりのスティグマ(負の烙印)を抱えることだった。1980年代から90年代にかけては、連続幼女誘拐殺人事件のような凶悪事件の背景にアニメなどの「オタク」的なものがあるとする風潮があって、「オタク」というのは犯罪者予備軍であるかのように世間から見られていた面があった。それに、そもそも大人になってから子供向けのものと思われているアニメを愛好するのはおかしいという風潮もあった。

 実際に当時の「オタク」の人たちは、現在でもステレオタイプとしてイメージされているような、一般的な観点からすれば「キモい」人が多かったのも確かである。

 

 だが、現在の「オタク」寄りの人たちは、そういったステレオタイプからだいぶ異なってきている。お笑い芸人やミュージシャンでもアニメ好きを公言する人は多いし、ジャニーズのアイドルグループ「Kis-My-Ft2」の宮田俊哉が「ラブライブ!」の熱烈なファンで重度の「オタク」であることも有名である。

 コミケ会場でも、いかにも「オタク」っぽい雰囲気を漂わせている人もたくさんいるが、そうではない、ごく普通の雰囲気の人や、どちらかと言えばオシャレな雰囲気の人、爽やかなカップルもたくさん見かけられる。

 おそらく、現在の高校生、大学生、20代前半くらいの若者には、かつてあったほどには「オタク」に対する抵抗感がないのではないだろうか。スポーツが得意な「体育会系」、地元に密着するちょっとだけワルな人たち、上昇志向が強い「意識高い系」、それからアニメが好きな「オタク」。こういった形で、様々な集団がある中から、自らのアイデンティティとして「オタク」的なものを志向し、それをステータスとする若者も多いのだろう。

 「オタク」というものがスティグマではなくなり、むしろステータスとなっていった要因として、インターネットやSNSの普及により、「オタク」的なカルチャーへのアクセスが容易になったこと、ネット上で同好の士を見つけて交流しやすくなったことで、「オタク」的な趣味が次第に「秘め事」ではなくなっていったことも挙げられる。

 

 2000年代後半から、アニメは主に深夜帯に放送されるようになった。「涼宮ハルヒの憂鬱」「けいおん!」「魔法少女まどか☆マギカ」「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」「進撃の巨人」「ラブライブ!」などの、一般にも名が知られていると思われる近年のアニメは皆、夜の22時台から3時台にかけて、全国ネットの放送局だけでなく、地方の独立放送局で放送されていた。その数は次第に増えていき、現在では玉石混交ではあるものの、多い地域ではだいたい週に30本以上の深夜アニメが放送されている。

 もともと、深夜番組と言えばマニアックなお笑い番組やドラマなどが多かった。これは、どちらかと言えば「サブカル」寄りのコンテンツである。そんな中に、2000年代後半以降は、パッと見は「オタク」向けのように見えても、じっくり見るとクオリティの高いアニメ番組も混ざっていくこととなった。

 すると、なんとなく深夜番組を見ていた「サブカル」的な感性を持つ人たちが、たまたま自分の感性に引っ掛かるアニメを見る機会も多くなる。それをきっかけとして、「オタク」寄りのカルチャーへも興味を持つということもあるだろう。

 かく言う私自身も、深夜になんとなくテレビをつけていた時にたまたま見た「マクロスF」のクオリティに衝撃を受けて深夜アニメに関心を持つようになり、「涼宮ハルヒの憂鬱(2期)」がきっかけとなってズブズブと「オタク」的なものにハマっていったクチである。

 現在の10代後半から20代前半の若者たちにとっても、インディーズの音楽、マニアックな漫画、映画、お笑い、演劇などと同じように、アニメというものが、かつての「サブカル」的な感性に引っ掛かるジャンルの一つとして存在しているのではないだろうか。

 この「オタク」と「サブカル」の関係性の変化は、アニメだけでなく、「ももクロ」以降のアイドルでも見られるが、それについては今回は控える。

 

 いずれにしても、かつてあった「オタク」と「サブカル」との間の「壁」がなくなった後、どのような新しい表現が生まれるのか、とても楽しみである。

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大賀 祐樹

おおが ゆうき

1980年生まれ。博士(学術)。専門は思想史。

著書に『リチャード・ローティ 1931-2007 リベラル・アイロニストの思想』(藤原書店)、『希望の思想 プラグマティズム入門』 (筑摩選書) がある。


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