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開府890年「千葉」の由来を探る(後編)羽衣伝説から千葉の真実の由来は?

千葉を辿ると日本の歴史が見えてくる『千葉 地名の由来を歩く』千葉の由来編②

◎日本で6番目、624万人もの人口を抱える千葉県の意外に知らない歴史が詳らかに!
◎千葉大学で教鞭をとっていた千葉在住の著者が、3年かけて歩き続けた千葉の地名の由来!
◎なぜこれほどまでに、千葉に由来する地名が全国に存在するのか!?…etc.

千葉県は成り立ち上、古くから全国の各地と密接につながっていました。安房の国・上総の国・下総の国はもともと阿波の国(現在の徳島県)の忌部(いんべ)氏が移住してできた歴史があるのです。また九十九里や銚子が紀州の人々によって開拓された事実、そして平安末期から鎌倉期にかけて千葉常胤の活躍によって全国に千葉氏の勢力が広がっていきました。千葉県はまさに日本史を理解する上で重要な位置を占めています。
そんな『千葉 地名の由来』より選りすぐった項をご紹介します。

「千葉」の真実

千葉の地名の由来には、

①羽衣伝説に系統を引くもの
②霊石天降伝説に系統を引くもの
③草木の葉の繁茂する様を形容したとする説

 この三つの説を並べてみると、羽衣伝説と霊石天降伝説は千葉氏のルーツを崇めて作られた話で、そのまま地名の由来と考えることには無理があります。

 ただ、羽衣伝説にあった「蓮の花千葉に咲けり」というフレーズは何とも美しく魅力的であります。

 それでなくとも、千葉市では縄文時代の種子から花を咲かせることに成功したという大賀ハスが多くの人々の注目を集めています。蓮の花やつる草の葉がたくさん繁茂する様子を表現したのが「千葉」だと考えていいでしょう。

 明治三八年(一九〇五)に出された『下総国旧事考』では、先ほど紹介した応神天皇の歌を示した後、次のように書かれています。

葛ハ葉ノ繁キモノナレバ。其枕辞ナリ。下総ノ国千葉郡アルモ。サル意ヲ以テ名付タルカトアリ。按ルニ本州ニ葛飾ノ郡アリ。飾ハ借字。繁ノ義ナルベシ。シカトシゲト通ス。然レバ。千葉郡ヲ建ル時ニ。ソノ発語ヲトリテ。名トセルニヤ。千葉葛飾両郡トモ。取分ケ原野多ク。葛藤ノ繁茂セルヨリ。負ハセシ名ナルベシ。

ここは重要なので、訳しておきます。

 葛(くず)はその葉が茂っているものなので、その枕詞です。

 下総国の千葉郡もその意味で名づけられたものです。本州に葛飾郡があるが、飾は借り字であり、繁の意味です。「飾(シカ)」と「繁(シゲ)」は相通じるところがあります。

 したがって、千葉郡を建てる時にその発語を取って名としたのではないでしょうか。

 千葉葛飾両郡ともとりわけ原野が多く、葛の繁茂していることによってその名をつけたものでしょう。

 これは「千葉郡」と「葛飾郡」の共通点を指摘しており、見事な説明になっています。

千葉県庁前。

 おそらく今から千数百年前の千葉県は、台地上や海辺のわずかな集落を除けば、一面の原野が続き、そこには葛をはじめとした多くの樹木がたくましく繁っており、その様子から「千葉」という地名が生まれたと考えられます。

 そこに千葉氏のルールを彩るための羽衣伝説などが加わり、現在の「千葉」に至っていると考えられます。

 その意味では、多くの葉や花が繁る豊かな自然と活力こそが千葉県のイメージにならなくてはならないでしょう。

 県庁の前に「羽衣公園」と呼ばれる公園があります。かつて「蓮の花千葉に咲けり」と詠われた「池田」の池のほとりに天女が衣を懸けたという松があったといわれていますが、今は新しい代の松に代わっています。

千葉 地名の由来を歩く』より

 

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谷川 彰英

たにかわ あきひで

筑波大名誉教授

1945年長野県生まれ。ノンフィクション作家。東京教育大学(現・筑波大学)、同大学院博士課程修了。柳田国男研究で博士(教育学)の学位を取得。筑波大学教授、理事・副学長を歴任するも、退職と同時にノンフィクション作家に転身し、第二の人生を歩む。筑波大学名誉教授。日本地名研究所元所長。主な作品に、『京都 地名の由来を歩く』シリーズ(ベスト新書)(他に、江戸・東京、奈良、名古屋、信州編)、 『大阪「駅名」の謎』シリーズ(祥伝社黄金文庫)(他に、京都奈良、東京編)『戦国武将はなぜ その「地名」をつけたのか?』 (朝日新書)などがある。

 

 

 

 

 

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