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ノーベル賞から4年。「iPS細胞」はここまで進化した!

サイエンス作家・竹内薫のノーベル賞プレイバック講義【第四回】

iPS細胞が私たちにもたらすふたつの恩恵

 iPS細胞を用いた治療の方法として、簡単なのは病気が進行してしまった場所に直接注入することによって、体の中でそれを筋肉にする、といった治療です。他には自分のiPS細胞を使って、自分の体にどういった薬が効くのかということを試せるようになる可能性ですね。そうすると個人にあった薬の投与の仕方が分かる。いまはそこが難しくて、効くか効かないか分からないで薬を投与している状態じゃないですか。

 しかしiPS細胞を使えば一種オーダー・メイドに投薬が組み立てられる可能性が出てくる。つまりiPS細胞にはいまふたつの話があって、レディ・メイドで万人に移植できるものをつくって移植していく。もうひとつは自分にはどんな薬が効くのか、薬に対してどんな副作用が出るのかということが自分のiPS細胞を使えば安全に確認できるかもしれないということ。

 30~40年後にはiPS細胞による治療は確実に普及していると思いますよ。いま20~30代の人は恩恵に預かれるはずです。わたしはどうでしょう…(笑)。結構人間への臨床って難しくて、安全性の確認が徹底されていないと危険です。とくにiPS細胞の場合はiPS細胞そのものがガン化する恐れがある。どんどん増殖していくから一種ガンに近い性質を持っているんです。

 だから絶対に安全というのを確立しないと人間の治療には使えない。臨床では安全性の検証はすごく慎重にしています。たとえば、人間の眼の病気(黄斑変性症)では理化学研究所がiPS細胞由来の網膜を移植する臨床試験を行っています。あと先程も触れたサルのiPS細胞での心筋を注入する実験です。それはサルの段階ですけど、一般論としてサルとかマウスでできると、普通は数年後には人間に応用できるようになります。ただiPS細胞を本当に人間に使う時には、絶対に安全だという担保が必要で、認可されるまではあと7、8年はかかるはずです。

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竹内 薫

たけうち かおる


 



1960年、東京生まれ。サイエンス作家。東京大学卒。マギル大学大学院博士課程修了。理学博士。「サイエンスZERO」(NHK Eテレ)のナビゲーターも務める 。

 


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