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第62回:「宴会芸」

<第62回>

12月×日

【「宴会芸」】

今回の日記は、未来ある子どもたちに捧げたい。

僕はいま、とても気が重い。

「ひとりずつ宴会芸を披露しなければならない」という強制ルールがある忘年会に、参加することになってしまったのだ。

「島耕作」的な世界から遠い距離を置いて生きてきた僕は、宴会芸というものに挑戦したことがこれまでに一度もない。

宴会にふさわしい芸とは、いったいどのようなものなのだろうか。

ハンドベル?

「世界にひとつだけの花」を手話付きで独唱?

フルート?

絵本「はらぺこあおむし」の読み聞かせ?

ダメだ。思いつくものすべて、宴会向きでない芸ばかりだ。なんだ、このボランティア臭しか漂わない芸たちは。保健所で月一とかで開催されてるママさん講座向きの芸ばかりではないか。

僕は頭を抱えたのち、すみやかにネットで「宴会芸」を検索した。

すると、「宴会芸.com」というサイトが現れた。

そこには、幾千もの宴会芸が網羅されていた。まさか、こんなサイトが存在するとは。

それは、日本のサラリーマンたちの叡智の結晶ともいうべきサイトである。

僕は、サラリーマンに対して、子どもの頃から強い憧れの念を抱いている。

スーツを着て、満員電車に揺られながら、日本の経済を支える男たち。

まさに「大人の代表格」。

そのサラリーマンたちが、苦心し、時には失敗を味わいながら、編み出した宴会芸の数々がそのサイトに奉納されている。

僕は心の中で正座をし、サラリーマンたちに感謝を捧げ、そのサイトを開いた。

まず目に飛び込んだのは、「おすすめ宴会芸」というコーナー。そこにはこんな宴会芸が紹介されていた。

「円周率を100桁まで暗唱する」。

「イエーイ!」とか「イッキ!イッキ!」とか「ビンゴー!」などの嬌声が飛び交う宴会の場で円周率を暗唱しても誰も聞いていないと思うのだが、本当にこの芸はウケるのだろうか。

一瞬、サラリーマンの叡智に対して疑心が湧く。

いやいや、まだ一端に触れただけではないか、と気を取り直し、他のコーナーを見ていくことにする。

様々な宴会芸が、ジャンルごとに分けられている。

「一発芸」

「モノマネ」

「歌・踊り」

「ゲーム」

「下ネタ」

ふと、目がとまった。「下ネタ」。なんだかそのコーナーだけは、開いてはいけない、パンドラの箱のような雰囲気を醸し出していた。

ごくり。ツバを飲み込み、おそるおそるリンクをクリックした。

そこには、おびただしい数の下品な宴会芸が羅列されていた。

目もくらむような、下劣極まりない宴会芸ばかりである。

そこには、サラリーマンの真髄があった。

その宴会芸のタイトルを、以下に並べる。語感から、内容を察していただきたい。

ホタル

ネッシー

潜水艦

ライオン

チョンマゲ

東京タワーを襲うモスラ

テント

おいなりさん

ケツメイシ

ドラゴンボール

なんだ潜水艦って。なんだテントって。東京タワーを襲うモスラっていうのはアレか、二人一組でやるのか。ケツメイシっていうのは、名刺をアレでアレするのか。

色んな思いが自分の中で渦巻いた。

そして、最後にこんな感想を抱いた。

「サラリーマンよ、性器を正しく使わなすぎだろう」。

子どもたちよ。大人たちは日々、チョンマゲやらネッシーやらケツメイシやらを披露しながら、この日本経済を支えている。一言だけ言う。尊敬しないほうがいい。

 

 

*本連載は、毎週水曜日に更新予定です。

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ワクサカソウヘイ

わくさかそうへい

1983年生まれ。コント作家/コラムニスト。著書に『中学生はコーヒー牛乳でテンション上がる』(情報センター出版局)がある。現在、「テレビブロス」や日本海新聞などで連載中。コントカンパニー「ミラクルパッションズ」では全てのライブの脚本を担当しており、コントの地平を切り開く活動を展開中。

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