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ロボットが心を持つ日はくるのか?

『アルファ碁はなぜ人間に勝てたのか』より抜粋

ロボットが心を持つ日はくるのか?

第3次AIブームにより、「心をもった人工知能が人間を滅ぼす」という、SFのような物語が
巷で語られている。ロボットが心を持つのか、という問題について、京都大学教授、斉藤康己著の『アルファ碁はなぜ人間に勝てたのか』(ベスト新書・10/7発売)より紹介する。

 ロボットが人類を滅ぼす?

 

 今回の第3次AIブームと時期を同じくして出てきた議論があります。

 いわく、AIは自己学習の能力を身につけたあかつきに、学習によりどんどん自分自身を進化させて、ある日人間を凌駕する知的能力を獲得する(一説では2045年だそうです!)というものです。

 またそれによって社会の仕組みが根本的な変化を被るというのです。
 さて、みなさんはこのストーリーを信じますか?

  機械が意識を持つと言う人がいます。そういう人には「意識って何ですか?」と問い返すことにしましょう。その問いに明確な答えがあれば、そしてさらにその明確な答えを計算機の上に実現する手段、方法などが存在すれば、意識を持った機械を作り出すことができるかもしれません。

 しかし、脳科学も心理学も認知科学も「意識とは何か」に関して明確な答えをまだ見いだせてはいないのです。見いだせたとしても、それを計算機上で実現するためにはさまざまな課題が前途に横たわっていると思われます。

 また、「自然発生的に」高度に進んだ人工知能プログラムの中に「意識」が芽生えるというような話をする人もいます。しかし、SFならばまだしも、「あらかじめ仕組む」という計算機プログラムの本質から考えてみてもそんなことは起こりえないと思われます。

 そうやって考えてくれば、人工知能やそれを搭載したロボットが「人類を滅ぼす」というようなシナリオも絵空事でしかないことは自明だと思います。

悲観論を超えて

 人工知能プログラムは他の普通のプログラムと同じように人間がプログラムしたもので、プログラムされたようにしか動きません。したがって、そこから未知の動作や反応が出てくるということは考えにくいのです。

 人工知能が人間を超えて、人類を滅ぼすなどというシナリオは杞憂にしかすぎません。そんな突拍子もないことを考えるのはやめて、今後ますます高度になってくる人工知能やロボットと、どのように仕事を分担していくのかということを良く考えるのが生産的だと思います。

 人工知能と人間は互いに敵対するものではまったくありません。ロボットならば、もう年取ってきたAI研究者が「昔憧れていたんだ!」とよく言う手塚治虫の鉄腕アトムとか、子供たちが大好きなドラえもんとか、あるいは『フラバー』という大昔の映画のディズニーによるリメイク版に出てくるウィーボという可愛い空飛ぶアシスタントロボットとかのように、とにかく人間の頼りになる相棒、良い仲間をイメージし、そのように我々が作っていけばよいのです。我々を補佐してくれる良きパートナーのイメージです。

 人工知能システムは我々人間が作るものですから、そのようなイメージに合わせて作れば、人類の脅威になるということはないはずです。

『アルファ碁はなぜ人間に勝てたのか』(ベスト新書)より抜粋

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齊藤康己

さいとうやすき

京都大学教授

工学博士。1953年、山梨生まれ。東京大学、エセックス大学卒業後、

NTT基礎研究所にて囲碁の認知科学的研究などを行う。

NTT OCN事業部を経て、現職は京都大学情報環境機構教授。

専門は人工知能、認知科学、インターネットやセキュリティなど。

共訳書に『メタマジック・ゲーム』、『リテラリーマシン ハイパーテキスト原論』などがある。


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  • 斉藤 康己
  • 2016.10.08