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「勝ちたい、絶対に勝ちたい!」という人間だけが
貪り読んできた『孫子の兵法』の魔力

孫子の戦略 運をつかんで生きる智慧 第三回

『孫子の戦略 運をつかんで生きる智慧』 著者の中島孝志氏

◆謀攻篇──戦わずに勝つ方法を考えよ

 『孫子の兵法』は、日本では(世界でも)、『論語』と並んで広く親しまれている名著であることは間違いない。
 秀吉が読んでいたかどうかはわからないが、少なくとも織田信長、武田信玄や上杉謙信は愛読していたし、徳川家康は孫子のおかげで二百七十年もの長きに耐えられる幕府をつくれた、というものだ。ナポレオン、毛沢東、そしてケネディも大ファンだった。
 いったい、なにがそんなに人を魅きつけるのか?
 『孫子の戦略 運をつかんで生きる智慧』(中島孝志・著/KKベストセラーズ)から、ビジネスシーンに置き換えて、その魅力に迫ってみたい。
 
 今回は13篇からなる、兵法から、「戦わずにして勝つ」という孫子の兵法の真髄と言える部分、謀攻篇について述べてみたい。
(ちなみに孫子の兵法は、計篇 ・作戦篇・謀攻篇・形篇・勢篇・虚実篇 ・軍争篇 ・九変篇 ・行軍篇 ・地形篇 ・九地篇 ・火攻篇 ・用間篇 の13篇からなる)
 

 ◆一人の敵もつくってはいけない

 およそ兵を用うるの法は、国を全うするを上となし
「敵を痛めつけずに降服させるのが上策だ」
 

 とどめを刺すほど相手を攻撃したらどうだろうか? ぐうの音も出ない、とあなたに一目置くだろうか? たぶん、そんなことはない。恨みに思って、陰に日向にあなたの不利になることを、あることないこと、ないことないこと、かまわずに触れ回ることになるだろう。
 敵だろうと、徹底的に痛めないこと。逃げ道を用意してやることが得策だ、と思う。
 
 痛めつけて降伏させるのは次善の策。
 痛めつけずに降服させるのが上策。
 撃破して降服させるのは次善の策。
 
 と孫子は語っている。

 百回戦って百回勝ったとしても最善の策とは言えない。戦わずに敵を降服させることこそ最善の策なのだ。
 敵は敵とせず、味方に変えよ、と孫子は六千字余りの短い文章の中で再三述べているほどだから、よっぽど自信があるか、よっぽど大切なポイントなのか、あるいはその両方なのだろう。
 同時に、戦争下手な将軍ばかりで、いたずらに国土と人民を不幸にしていることを憂えていたのだと思う。

 人間関係をスムーズに運ばせるコツは、「汝の欲せざるところのものを人に施すことなかれ」(『聖書』)ではなかろうか。
 聖書ばかりか、論語にも同じ言葉があるくらいだから、万国共通の真理なのかもしれない。
 簡単に言えば、人が嫌がることはしない、言わない、やらせない。
 つまり「敵を作らないこと」ということだ。
 これは人づき合いの鉄則だと思う。
 
 わたしが、この意味に真に気づいたのは二十代の後半だった。それまでは、傍若無人がスーツを着て歩いてるような人間だったから、知らず知らずのうちに人を傷つけ、その反作用で手痛いしっぺ返しがたくさんあった。
 
 ある経営者からずばり指摘されたことがある。ふつうなら言わないことを敢えてアドバイスしてくれた。これは、なかなかできないことだ。
 
 「君を見ていると、抜き身の刀をぶんぶん振り回して歩いているように感じてならない。これでは敵を作るよ。人生で大切なことは味方を作ることじゃない。敵をいかに作らないかだ。その刀は鞘にしまっておいたほうがいいぞ」
 
 賢ぶっているわたしに、「馬鹿になれ」というわけだ。
 当時の私には、これがわからなかった。敵を十人作っても、味方が一人か二人できればそのほうがいいのではないか、と思っていた。
 これはあとで判明するが間違いである。
 
 ビジネスの世界では味方がたくさんいるより、敵がいないほうが成功する。

 味方というのはあなたの状況次第でどちらにでも転ぶが、敵はあなたの行く手をいつも邪魔をする。
 この敵を作ったのは、ほかのだれでもない。あなた自身なのだ。
 気づかないかもしれないが、地位とか口調、人気や時には健康までが嫉妬の対象になって敵を作る。ましてプライドを傷つけたりすれば、相手は不快感から怒りと憎しみさえ持ちはじめる。これは自然の流れである。
 
 人間はだれでも自尊心の塊。「一寸の虫に五分の魂」という通り、虫でも自尊心があるなら、人間ならどのくらいのものか気づくはずだ────。

 さて、いかがだろうか。孫子の解釈は多説あるが、自分なりにいまの生活に落とし込んで考えてみることが大切であるように思う。

 ビジネスの世界では味方がたくさんいるより、敵がいないほうが成功する。

 賛否両論ありそうだが、まずは、抜き身の刀をぶんぶん振り回して歩いていないかを反省してみたい。

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  • 中島 孝志
  • 2016.04.09