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大阪カジノ構想は、どこまで行ってもノープラン

本当は誰も期待していない「大阪カジノ」

カジノ法案を提案した自民党の細田博之総務会長は参院本会議で「IR整備により観光や地域経済の振興、財政の改善につながる」と訴えました。中でも、大阪府・市はカジノを含めた統合型リゾート誘致に協力を働きかけています。大阪カジノの可能性と実現性を、『カジノ幻想』(ベスト新書)の著者・鳥畑与一氏が徹底分析!

 

大阪IR構想は「規模」しか見ていない

 大阪府のIR構想の特徴は、関西人口圏2000万人と関西国際空港による東アジアからのアクセスの良さを活かした「他地域を圧倒する」世界でも最高水準のIR施設の建設構想という点である。世界最高水準のエンターテイメント機能とコンベンション(MICE)機能の提供と関西の観光資源とのシナジー効果で国内外からの大規模な集客を見込んでいる。

 

 そして、それを可能にするのが「収益エンジン」としてのカジノの存在だ。博報堂の栗田朗氏は「良好なゲーミングの収益が見込めることによって、5000億円、1兆円といったIRに対する投資を世界から呼び込むことができ、必ずしも採算性が高いとは言えないノンゲーミングの部門の収益を安定させることができる、という構造になっています。……特にMICE、あるいはエンターテイメントといった大きな投資が必要だけれども、必ずしもそれが大きな収益を安定して上げるとは限らない」施設への投資が可能になると語る。

 つまりはカジノの高収益をIR内の非採算部門に回すことで巨大投資が可能となり、世界最高水準のサービス提供で集客した観光客の一部がカジノの高収益を増大させるという好循環が成立するというわけだ。

 

 そしてこのIRは関西・大阪における巨大な投資を招き、雇用増大ばかりか大きな税収が産まれることで、福祉、医療、教育、観光、文化、芸術等への財源が確保できると言う。その一方でカジノによるギャンブル依存症や青少年への悪影響などの負の側面は「厳格な制度・規制・監視といった海外の対応策」の適用で防止可能であるし、IRの収益等で依存症対策が促進できるとされる。

 しかし、大阪府構想の「世界第1級のMICE機能の創出」の具体的な内容は、「世界レベル規模の国際会議場・展示場の設置」「大規模な国際会議・展示会等のイベント誘致を促進する機能」「多言語対応が可能なコンシェルジュの配置や施設内サインの設置」の例示でしかない。

 ちなみに関西経済同友会は、既存のATCホールやインテックス大阪(いずれもベイエリア地区)や大阪城ホール、京セラドーム(いずれも市中心部)などのMICE機能に触れながら、「一見すると、大阪の中心部やベイエリアには、MICE機能等が揃っているように見える」が、「国際競争を勝ち抜けるような規模感はない」ということと「魅力的な施設は存在するが、それらは点在するに過ぎず、戦略的な意図を持った連携・配置にはなって」いないのが問題だとする。

 そしてその欠陥は、IRにおける3万㎡規模の展示場と6万人収容の会議室、1万㎡のパンケットの建設で解消するというが、規模の不足さえ解消されれば国際間のMICE誘致競争に勝てるのだろうか。

 例えば年間2万件の会議で500万人の会議参加者を誘致しているラスベガスは小規模な会議誘致にも力を入れており、平均的な会議規模は2000人である。シンガポール訪問時に見た2つのIRにおける会議場・展示場は閑散としており有効に機能しているとは思えない。規模だけの問題に解消するMICE機能論は一層の検討が必要である。

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鳥畑 与一

とりはた よいち

1958年生まれ。静岡大学人文社会科学部経済学科教授。大阪市立大学経営学研究科後期博士課程修了。専門は国際金融論。著書に『略奪的金融の暴走:金融版新自由主義のもたらしたもの』(学習の友社、2009年)、「グローバル資本主義下のファンド」(野中郁江他編著『ファンド規制と労働組合』序章、新日本出版社、2013年)、「カジノはほんとうに経済的効果をもたらすのか?」(全国カジノ賭博場設置反対連絡協議会編『徹底批判!! カジノ賭博合法化―国民を食い物にする「カジノビジネス」の正体』第2章、合同出版、2014年)などがある。


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  • 2015.04.09