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侘しさが募る夕張への旅

廃線直前、JR石勝線夕張支線をゆく

追分駅に停車中の新夕張行きディーゼルカー

 このほど、JR石勝線夕張支線の廃止を夕張市が容認すると申し出、これを受け、JR北海道が廃止を正式に申し入れたとのニュースが流れた。にわかに夕張支線がクローズアップされたので、これを機に、ちょうど1年前の夏に、ふらりと夕張まで鉄道で出かけたときの様子を振り返ってみた。

 

 2015年当時、札幌から夕張へ普通列車で向かうとなると、何回も乗り換えなければならなかった。まずは新千歳空港行きの快速電車で千歳駅へ行き、ここから千歳発新夕張行きの列車に乗り換えた。北海道のローカル線ではお馴染のキハ40形ディーゼルカー1両(単行)のみの列車。冷房はなく、半分程度席が埋まった状態で出発した。

 南千歳駅を出ると、石勝線に乗り入れる。近くに人家が見当たらない広々とした平原を走る。特急列車が頻繁に走る路線なのに単線なので、行き違いや追い抜きの設備として信号場が多い。駅にするほど利用者がいないのであろう。西早来信号場で、上りの札幌行き「スーパーとかち」とすれ違う。

 室蘭本線と合流すると追分着。石炭輸送が盛んだったころは栄えたであろう拠点駅もだだっ広いだけで人影はまばらだ。長いホームに、ディーゼルカーが1両だけぽつんと停まっている情景は、絵にもならずさみしい限りだ。ここで10分以上停車し、その間に室蘭本線の列車が到着、もうひとつのホームには帯広行きの特急「スーパーとかち」が追いついて、先に発車して行った。

滝ノ上駅で停車中に特急列車が通過して行った

 

新夕張駅にてキハ40が並ぶ

 

 追分を発車すると、牧草地の中を走る。追分でかなりの人が下車したので、車内はガラガラとなってしまった。滝ノ上でも数分停車。今度は、札幌行きの特急が通過するための待ち合わせである。

 新夕張に到着すると、同じホームの反対側に夕張行きの列車が待っていた。乗ってきた列車と同じキハ40形ディーゼルカーでやはり1両。同形式の車両が並ぶ。夕張行きに乗りこむが、こちらも車内は空いている。

 数分後に発車。左にカーブし、夕張川を渡る。右手には帯広、釧路方面へ向かう石勝線の線路が見える。列車は、山に囲まれた谷あいをのどかに走る。夕張国道が並行していて、向こうはすいすいとクルマが流れている。鉄道はとても勝ち目がない。

 再び夕張川を渡り、南清水沢を経て清水沢に停まる。ホームと駅舎がかなり離れている。その間には、かつては線路が何本もあり、石炭を満載した貨車が数多く停まっていたのであろう。今では、草茫々の空き地となって放置状態だ。

線路脇には使われなくなったトンネルがあった

夕張駅の可愛い駅舎の背後には巨大なホテルが建っていた

 清水沢からは山越えにかかる。線路脇をよく見ると、線路をはがした跡がある。石炭輸送華やかなりしころは複線で貨物列車をさばいていたようだ。途中でくぐったトンネルも脇に廃止となったトンネルがもうひとつぽっかりと穴をあけて待っている。もちろん線路はなく、入口には柵があり、立入禁止の札が立っている。何とも虚しい情景だ。とはいえ、人跡未踏のような山岳風景は渓谷美もあり、実に見ごたえのある車窓だ。観光地でも何でもないところにも美しい風景があるのは、さすが北海道である。

 山を越え、列車は夕張の市街地にさしかかったようだ。並行する国道脇には幾つも建物が目につく。鹿ノ谷に停まると、すぐに終点夕張駅。ホーム片面の行き止まりで、メルヘン調の可愛い駅舎だが、目の前に巨大なホテルが立ちはだかり、圧倒される。しかし、夏休みの観光シーズンにもかかわらず、ホテルは閑散としていた。何もかもが廃墟のような夕張。

 ホテル内のレストランで食事を済ませると、観光スポットがどこも休館日だったこともあり、いたたまれなくなって、次の列車で慌ただしく夕張を後にした。その列車は、新夕張で私と同行者、それにもう一人の鉄道ファン風の乗客を降ろすと、車内は無人となって追分方面へ発車していった。車掌のいないワンマン列車なので、列車内は運転士一人だけ。何だか絶望的な状況に唖然として列車を見送った。

夕張駅で発車を待つディーゼルカー

野田 隆

のだ たかし

1952年名古屋生まれ。日本旅行作家協会理事。早稲田大学大学院修了。 蒸気機関車D51を見て育った生まれつきの鉄道ファン。国内はもとよりヨーロッパの鉄道の旅に関する著書多数。近著に『ニッポンの「ざんねん」な鉄道』『シニア鉄道旅のすすめ』など。 ホームページ http://homepage3.nifty.com/nodatch/

 

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