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まだ間に合う!夏休みに行きたい北海道のすごい名所BEST3

8月8日発売『企画展がなくても楽しめるすごい美術館』より北海道の美術館をピックアップして紹介します。

【モエレ沼公園】順路もマニュアルもない、大自然のなかの美術館

不燃ゴミと公共残土を積み上げ造成された人工の山で、公園最大の建築物である「モエレ山」。
            写真提供:モエレ沼公園

 札幌市東区の郊外に約189ヘクタールという広大な面積で広がるモエレ沼公園。ここは初めて訪れると戸惑ってしまうかもしれません(かくいう私自身そうでした)。エリアのなかにいくつかの施設(?)が点在するだけで、順路が指定されているわけでも遊び方が指示されているわけでもないからです。

 公園内にはモエレ山やプレイマウンテン(遊び山)といったランドマークが屹立し、スケールの大きな景観を形成しています。とりあえずモエレ山に登り始めると、人工の山であるにもかかわらず、けっこう登り応えがあって汗をかきます。ふうふういいながら登っていくうちに日頃の雑事を忘れ、頭がカラッポになります。無心にカラダを動かすことでココロの澱 が取れるのでしょう。山頂からは360度視界が開け、札幌の街を見渡すことができます。そして、空が広い! じつに爽快です。

 モエレ沼公園は彫刻家のイサム・ノグチが構想したところです。しかし、最初から計画されたものではありませんでした。1988年、不燃ゴミを埋め立てて大規模な公園をつくることが予定されていたモエレ沼の地に立ったノグチは、「未来の彫刻は地球そのものに刻み込まれる」と1933年にひらめいて以来、50年以上温め続けたプレイグラウンド計画を実践する場としてここを希望しました。「人間が傷つけた土地をアートで再生する」というノグチの考えに札幌市も共鳴、ノグチに公園の設計が委託され、「公園全体がひとつの彫刻作品」というモエレ沼公園が誕生することになったのでした。

 モエレ沼公園に順路も遊び方の指定もないのは、ここでの過ごし方は来訪者一人ひとりに委ねられているからです。高度情報社会の現代、私たちは大量の情報に取り巻かれています。あらゆるモノの取り扱い方を教えるマニュアル情報、いま何が人気かを伝えるランキング情報、注目すべき事象を指定するかのようなラベリング情報……。微に入り細を穿った情報サービスがすぐさま価値付けをし、見方まで刷り込むかの如きです。いま私たちはそんな世界にいます。そのような情報システムに浸っているうち、知らず知らずのあいだに私たちは主体性を喪失し、半ば趨勢に押し流されている可能性があります。

 美術鑑賞も例外ではありません。評判の高い展覧会には大量の観客が押し寄せるのに、ごくふつうに開かれている常設展は閑古鳥が鳴いていて、その落差は異常です。私たちはじつはただ煽られて展覧会に行っているだけではないのかと疑われてきます。

 モエレ沼公園は私たちのそんなあり方に気づかせ、問い直しを呼びかけてくれます。もしガイドがないことで戸惑いを覚えるとしたら、それだけ自分がマニュアル人間になっていた証拠。ほんとうは何もないところにこそ自分のクリエイティビティを発揮する余地があるはずです。

 

モエレ沼公園
〒007-0011
北海道札幌市東区モエレ沼公園1-1
011-790-1231
http://moerenumapark.jp
営業時間/7:00〜22:00(入園は21:00まで)
休/無休(園内各施設は定休日あり)
料金/無料
アクセス/電車: 地下鉄東豊線環状通東駅よりバス約25分 
     車:札幌市街地より約30分

 

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藤田 令伊

ふじた れい

1962年、奈良県生まれ。アート鑑賞ナビゲーター、大正大学文学部非常勤講師。企画集団プラスリラックス共同代表。鑑賞者の立ち位置を大事にしながらアートの愉しみを広げる活動に尽力している。独自の視点によるアート情報サイト「ARTRAY」主宰。著書に『現代アート、超入門!』『フェルメール 静けさの謎を解く』『アート鑑賞、超入門!7つの視点』(すべて集英社新書)、『芸術がわからなくても美術館がすごく楽しくなる本』(秀和システム)がある。


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