銭ゲバ経営者に聞かせたい!ーー 渋沢栄一の「道徳経済合一説」 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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銭ゲバ経営者に聞かせたい!ーー 渋沢栄一の「道徳経済合一説」

【連載】「あの名言の裏側」 第4回 渋沢栄一編(2/4) 個人の利益と社会の利益を一致させる

 その一方で、「そもそも金儲け自体がよくない」と経済活動そのものを乱暴にひとまとめにしてさげすんだり、「自分の幸せや願望などは捨て去って、ただ会社のために無心で働くべし」といった調子で個人の思いを軽んじ、ひたすら組織のために尽くせというような暴論を押し付けたりする向きもあります。 渋沢氏は、そのどちらも「違う」と諭します。先に引用した一節の続きです。
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 このようにいうと、とかく「利益を少なくして、欲望を去る」とか、「世の常に逆らう」といった考えに悪くすると走りがちだが、そうではないのだ。強い思いやりを持って、世の中の利益を考えることは、もちろんよいことだ。しかし同時に、自分の利益が欲しいという気持ちで働くのも、世間一般の当たり前の姿である。そのなかで、社会のためになる道徳を持たないと、世の中の仕事というのは少しずつ衰えてしまう、ということなのだ。
(渋沢栄一/守屋淳・訳『論語と算盤』より)
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 このような渋沢氏の考え方を「道徳経済合一説」といいます。道徳と経済はいわば両輪のようなものであり、どちらも大切。いずれかに偏ってしまうとうまくいかなくなり、いずれ破綻してしまう、というわけです。これは経済だけでなく、政治においても重要な視点であると渋沢氏は指摘しています。

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 わたしは普段の経験から、
「論語とソロバンは一致すべきものである」
 という自説を唱えている。孔子は、道徳の必要性を切実に教え示されているが、その一方で経済についてもかなりの注意を向けていると思う。これは『論語』にも散見されるが、とくに『大学』という古典のなかで「財産を作るための正しい道」が述べられている。

 もちろん今の社会で政治をとり行おうとするなら、その実務のために必要経費が必ずかかってくる。また、一般の人々の衣食住に関わる財務諸表が必要になってくるのはいうまでもないだろう。一方で、国を治めて人々に安心して暮らしてもらうためには、道徳が必要になってくるので、結局、経済と道徳は調和しなければならないのだ。

 だからこそ、わたしは一人の実業家として、経済と道徳を一致させるべく、常に「論語とソロバンの調和が大事なのだよ」とわかりやすく説明して、一般の人々が安易に注意を怠ることがないように導いている。
(渋沢栄一/守屋淳・訳『論語と算盤』より)
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 渋沢氏が、現在まで続くさまざまな企業、教育機関などの組織の設立に携わったことは前回述べたとおりなのですが、そうした取り組みは、渋沢氏の道徳経済合一説にもとづく公益重視の考え方が大きく影響しています。
 つまり、私的な利益の追求に固執することなく、富国日本をつくりあげて社会全体を底上げし、世界の先進諸国と渡り合っていくための体力、智力を養うことを第一に考えていたということです。実際、渋沢氏は会社を立ち上げて事業を軌道に乗せると、その会社を他の適任者に任せて自分は退き、また別の新しい会社を立ち上げることに専念しました。

 利益は独占せず、広く社会全体のために使う──そんなスタンスで精力的に働き続けた渋沢氏は、あるとき、三菱財閥の創始者・岩崎弥太郎氏と激しく対立することになるのですが……。
 そのあたりの話は次回、詳しく解説していきましょう。

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漆原 直行

うるしばらなおゆき




1972年東京都生まれ。編集者・記者、ビジネス書ウォッチャー。大学在学中より若手サラリーマン向け週刊誌、情報誌などでライター業に従事。ビジネス誌やパソコン誌などの編集部を経て、現在はフリーランス。書籍の構成、ビジネスコミックのシナリオなども手がける。著書に『ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない』、『読書で賢く生きる。』(山本一郎氏、中川淳一郎氏と共著)、『COMIX 家族でできる 7つの習慣』(シナリオ担当。伊原直司名義)ほか。

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