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息苦しい宮廷生活……浪費家と呼ばれたマリー・アントワネットの苦悩

『ベルサイユのばら』で読み解くフランス革命④

公開された生活

 アントワネットの日々の生活は、すべて公開された状態でした。ルイ14世が王族の権威を人々に示すために、これほどすごい生活をしているのだということを見せる慣習がずっと残っており、豪勢な食事もみんなに見せながらとりました。
 出産も公開です。王位継承者の出産は、本当に彼女が生んだかどうかを見せないといけないものなのです。それは王妃としての一番の仕事で、非常に大事なことでした。『ベルサイユのばら』の中でも、多くの人たちが固唾を飲んでアントワネットの出産に立ち会っていますが、あまりにも大勢の貴族が部屋に詰めかけたので、息苦しくて失神してしまった人もいたそうです。貴族として王妃の出産に立ち会うというのは、それほど名誉なことだったのでしょう。
 食事を共にした、お茶の席に招かれた、などもそうです。王室の人々と時間を共有することは、それだけで貴族のステータスとなりました。逆に言えば、そのような貴族との関係性こそが王室の権威を支えていたのです。
 けれどもアントワネットは、その風習をどんどん壊していきます。
 お気に入りの離宮プチトリアノンにも自分の好きな人しか呼ばず、既存の大貴族からの反発は非常に強かったと思います。さらに、それまで王国臣民に一般公開することが慣例であった日々の午後の正賓も、日曜だけにし、残りの日は自分の好きな人たちだけを招いて食事をするようになりました。

「退屈が怖いのです」

 フランスとの平和同盟のために14歳で嫁いだアントワネットですが、まだ若い彼女にはルイ16世との間に愛を見出すことができませんでした。心にどこか寂しさを感じながら、それを埋めるかのようにドレスや宝石に莫大な額のお金を注ぎ込み、宮廷を抜け出しては仮装舞踏会や賭博にふけるようになっていきます。一日の行いがきっちりと決まっている単調で退屈な毎日に、アントワネットは恐怖さえ感じるようになっていくのです。
 その後、ルイ16世との間に4人の子どもをもうけます。子どもたちが生まれてからは母性愛に目覚め、やっと夜遊びも減り、子どもたちとの時間を楽しむ生活へと変わっていきますが、しかし時はすでに遅く、それまでの浪費と身勝手な行いが、彼女と子どもたちを引き裂くことになってしまうのです。

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池田 理代子

いけだ りよこ

劇画家・声楽家。大学在学中より劇画を描き始め、1972年に連載を開始した『ベルサイユのばら』は社会現象ともいえる大ヒットとなり、今もなお国際的な人気を博する。『オルフェウスの窓』で日本漫画家協会優秀賞受賞。代表作は他に『栄光のナポレオン エロイカ』、『女帝エカテリーナ』、『ベルばらKids』など。

1999年東京音楽大学声楽科を卒業、現在はソプラノ歌手として活動する傍ら、2014年には『ベルサイユのばら―エピソード』『まんが日本の古典 竹取物語』などを執筆。

2009年、日本においてフランスの歴史や文化を広めた功績に対し、フランス政府よりレジオン・ドヌール勲章を贈られた。

http//www.ikeda-riyoko-pro.com


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