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老朽化した「モテテク」と、自分に自信のない男たち

これからは「フリースタイルダンジョン男子」こそがモテる

皆さんはいま話題のMCバトル番組「フリースタイルダンジョン」をご存知でしょうか?
チャレンジャーが「モンスター」と称するプロラッパーたちと即興ラップを競わせて賞金獲得を目指すバラエティ番組で、大きな反響を呼んでいます。
漫画家・山田玲司に聞く、彼らの生き方が象徴するこれからの「モテ」とは?

変わってしまった「イケてる男のイメージ」

イラスト/山田玲司

 ここ数年「モテる男像」に異変が起きている。
 どういう異変かと言うと、それまでは「キモい」と瞬殺されていたタイプの男達が「逆にかっこいい」とリスペクトされているのだ。
 わかりやすい例を挙げれば、少し前の「江頭2時50分リスペクト」の空気から、あれだけ嫌われていたノンスタイル井上の「勘違い自分に陶酔(キャラ)」も人気が定着している。去年、火がついた全裸風芸人「とにかく明るい安村」もこの流れにあるだろう。
 その流れに加えて、トレンディエンジェルの「ハゲって素敵だろ?」という怒涛の「かつてのマイナスをプラスにしてしまう男達」へのリスペクトブームが押し寄せている。
 しかも始めは「よくやるよ」と言う嘲笑混じりのリスペクトだったのが、やがて本気のリスペクトになっていき、その中には妙齢のお嬢さんたちも含まれている。

 彼らの共通点は「圧倒的な自己肯定感」だ。
 なんとなくそんな事を感じていたある日、原宿の駅に大量の「出川哲朗」のポスターが貼ってあるのを目にした。
 原宿駅のポスターと言えば定番の人気モデル(Viviとかの)やKポップのイケメン軍団なんかがお約束だったのに、52歳小太りの中年男性「出川哲朗」なのだ。
 そして、そのポスターには「折れるもんなら折ってみろッ!」とある。
 つまり、ここに来て「メンタルの強さ」こそが「かっこいい」という時代になっているのだ。
 相変わらずジャニーズもイケメン俳優もKポップも女子に大人気ではあるものの、そんな女子達の中にすら、彼ら「自己肯定タレント」に好感を持っている人達がいる。

 

長かった「見た目主義」の時代

 この国では、人の価値は長いこと「見た目」と「肩書」で判断されてきた。「見た目の基準」は(例外はあるものの)男であれば基本「背が高い」「スタイルが良い」「顔がいい」「センスの良い髪型と服」あたりだった。
 最近は40代以降の男に人気が集まっているけれど、長い間「年長の男」は「おっさん」として嫌悪されていたので、「若さ」もこれに入っていた。
 これに自信がないタイプの人間は、肩書や収入を上げるか、かつての男達は車などの「アイテム」で差をつけようとしていたものだった。
 そんな「見た目時代」が始まる遥か昔の日本には「人の価値は見た目じゃねえよ」と「寅さん的まともさ」をこの国の庶民は持っていた。
 でもその「清貧の美学」は、バブルからの拝金主義に駆逐され、その後の世代からは(団塊ジュニア以降)は「ぶっちゃけ金でしょ」「ぶっちゃけ見た目でしょ」と、その美意識を暴落させてしてしまった。
 女子高生の援交あたりから始まった「本格的な価値の崩壊」は、人の価値は「心」ではなく「身体の良さ」「見た目の良さ」に移行し、それを批判する人は相手にされなくなってしまった。
 そんなわけで、ある時期からの日本人は、自分の見た目を良くして「高く売る」という発想をするのがスタンダードになってしまった。
 そして中身はないけど「見た目」はいい、というタイプの人間がもてはやされ、多くの人間がそこを目指した。

 

「使えないイケメン」の登場

 そんな風に「見た目がいいからいい」という時代が続くと、それはそれで問題も起きる。
 女の子が「何もできないけど若くて綺麗」というのは許されてきたけれど、男のそれはどうにも使えないからだ。
 それでも「彼の見た目がいいからそれでいい」という女ならいいけど、多くの女はもっと厳しい。「イケメンのくせにバカで何もできないよね」と、かえって不満を感じるからだ。
 特に内面的にも普通で、たいした経験もないような「どこにでもいる男子」が、頑張って「イケメン風」になっても、中身が無いと「その先」は辛い事になる。
 要するに「見た目さえよければそれでいい」という時代に限界が来ているのだ。
 女子ウケしそうなスタイルを選んでいる男の多くは「時代の雰囲気」に自分を委ねてしまっているので、総じて自分に自信がない。
 ところが女達は男に「好みの見た目」でいて欲しいものの、「自分に自信のない男」は求めていない。何ならいつでも「壁ドン」かませるくらいの自信を持っていて欲しいのだ。
 それは今の女子は過酷な「見た目評価」の中に生きていて、基本的に自分に自信がないから、相手には「自信満々」でいて欲しい、という背景がある。
 ところが、今の若い男達は「そこそこの見た目」で「自分に自信がない」という人間ばかりになっている。
 そういう男達にかつての「こんな服を着ろ」とか「こんなお店に飲みに連れて行け」とか「こんな会話で盛り上げろ」とか「話を聞き出す10のテクニック」なんていう「かつてのモテテク」は意味が無いのだ。
 いくらそういう「デートスキル」を上げても、そもそも自分に自信がなければ、聡明な女の目には「無理して女に合わせているだけの軽薄なヤツ」に見えてしまうからだ。

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山田 玲司

やまだ れいじ

マンガ家。1966年東京都生まれ。小学生の頃から手塚治虫に私淑し、20歳でマンガ家デビュー。オタクがモテるまでの道のりを描いた『Bバージン』(小学館)で一気にブレイク。女性のための恋愛コミックエッセイ『モテない女は罪である』(大和書房)や『AM』での恋愛コラム『山田玲司の男子更衣室へようこそ』などを手がける。著名人へのインタビューマンガ『絶望に効くクスリ』シリーズや、『非属の才能』(光文社新書)といった新書でも知られる。どの作品にも、「どこにも属せない感覚」を持った若者たちへのメッセージが込められている。ニコニコチャンネル「山田玲司のヤングサンデー」を毎週水曜日に放送中。 

公式サイト http://yamada-reiji.com/

Twitter:@yamadareiji


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