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右でも左でもない、小林よしのりの思想に刮目せよ!

ベスト新書15周年「ゴーマニズム戦歴」発売記念コラム3

小林よしのりとは、いったい何者なのか

 この単純な問いに答えるのは、なかなか難しいだろう。とくにここ数年は、わしという存在に対して抱くイメージが、人によってバラバラになっている。

 無論、いちばん簡単で確実な答えは「漫画家」だ。いかにも、わしは漫画家である。それを否定する者はいない。『東大一直線』でデビューし、『おぼっちゃまくん』で大ヒットを飛ばした後、『ゴーマニズム宣言』で社会を挑発し続ける漫画家だ。

 だが、わしという漫画家は従来の枠組みではとらえきれない。なにしろ『ゴーマニズム宣言』では自分自身がキャラとして登場し、一人称で思想を語るという新しいジャンルを開拓してしまった。しかもその思想は、どんどん深まっている。現在、わしがどういう立場で何を考えているのかをまともに説明できる人間は、きわめて少ないだろう。

 小林よしのりは、誰の味方で、誰の敵なのか。

 そもそも右なのか、左なのか。あるいは、そのどちらでもないのか。
 その立ち位置をめぐって、世の「小林よしのり観」は錯綜し、混乱をきわめている。その結果、論壇でもネット上でも、わしへの誤解と偏見が満ちあふれているのが現状だ。

 典型的な例を二つ挙げよう。

 安倍政権の安保法制への抗議デモで一躍有名になったSEALDsの学生諸君は、わしを「ネトウヨの親玉」のような人間だと思い込んでいるらしい。代表者との対談の場で顔を合わせるやいなや、「ネトウヨも安倍政権も小林よしのりがつくった」「『戦争論』を描いたことを反省せよ」などと謝罪を求められたから、大いにたまげた。

 とはいえ、いきなり謝罪を求める姿勢はともかく、この「小林よしのり観」はごく一般的なものだろう。もちろんそこには大きな誤解があるが、『戦争論』を描いて以来、多くの人間がわしに「右翼」のレッテルを貼ってきた。

 しかしその一方で、わしを左翼扱いして拒絶するメディアもある。しかも、それがなんとあのNHKなのだから、話がこじれすぎてワケがわからない。ある人物がわしを連れて韓国で元従軍慰安婦の取材をする企画をNHKに持ち込んだところ、スタッフから「小林は左翼だから駄目だ」といわれたそうだ。

 たしかに本来なら、NHKとわしでは従軍慰安婦問題への見解が折り合うはずがない。それは、NHKが左翼的なメディアだったからだ。したがって、NHKが「小林は右翼だから駄目だ」というなら、まだわからなくもない。「いつものこと」である。ところが、百田尚樹や長谷川三千子などを経営委員に迎えるやいなや一転して安倍政権ベッタリになったNHKには、その安倍政権に批判的なわしが「左翼」に見えるらしい。

 まあ、それも無理はないだろう。従軍慰安婦問題に対するわしの考え方は昔と何も変わっていないが、解釈改憲による安保法制には反対だし、脱原発も主張しているから、朝日新聞のような左翼メディアは大喜びでわしを使う。『戦争論』のときは社説でさんざんわしを批判した朝日新聞だが、わしが心を入れ替えて転向したとでも思っているのかもしれない。

 そういえば『朝まで生テレビ!』でも、左寄りの論客が並ぶ「左翼席」のど真ん中に座らされたことがあった。両隣の出演者はやや迷惑そうな雰囲気だったが、わしもちょっと居心地が悪かった。結論は同じ「反安倍」「脱原発」でも、左翼とわしではその理由が必ずしも一致しない。同じカテゴリーに仕分けされてもお互い困るのである。

 ともあれ、アンチ安倍政権の連中からは「右」として批判され、安倍政権支持の自称保守派からは「左」として拒絶される。それが、現在のわしだ。

 いや、わし自身は変わっていないのだから、「それが現在の小林よしのり観だ」というべきだろう。混乱してワケがわからなくなっているのはわしではなく、わしを見る世間のほうである。「右か左か」という旧態依然としたジャンル分けでしか思想を把握できない粗雑な頭で考えるから、わしが「何者」なのか理解できないのだ。

 

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小林 よしのり

こばやし よしのり

1953年福岡県生まれ。漫画家。1976年、大学在学中に描いた『東大一直線』でデビュー。以降、『おぼっちゃまくん』などの作品でギャグ漫画に旋風を巻き起こした。1992年、社会問題に斬り込む「ゴーマニズム宣言」を連載開始。1998年、「ゴーマニズム宣言」のスペシャル本として発表した『戦争論』(幻冬舎)は、言論界に衝撃を与え、大ベストセラーとなった。現在『SAPIO』にて連載中。近刊に『大東亜論』第一部・第二部(小学館)、『民主主義という病い』(幻冬舎)、 『保守も知らない靖国神社』(ベスト新書)などがある。


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