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表面的な「成功」や「失敗」は関係ないーー “日本資本主義の父” 渋沢栄一の金言

【連載】「あの名言の裏側」 第4回 渋沢栄一編(1/4) 「 片手にそろばん、片手に論語」の意味

成功や失敗というのは、結局、
心をこめて努力した人の身体に残る
カスのようなもの
──渋沢栄一

 “近代日本資本主義の父”と呼ばれる人物がいます。
 渋沢栄一。
 1840年(天保11年)~1931年(昭和6年)と91年に渡る生涯で、江戸・明治・大正・昭和の4つの時代を駆け抜けた偉大なる実業家です。

渋沢栄一(写真:近現代PL/アフロ)

 日本の近代化に多大なる貢献をした実業界の巨人として知られる渋沢氏は、およそ500にものぼる企業の設立、育成に関わりました。それだけでなく、約600もの社会事業、教育機関の設立などにも参画。篤志家としても知られており、関東大震災の復興を支援する大震災善後会の副会長に就任して寄付金集めに尽力したり、水害で大きな被害を受けた中国を支援するべく、中華民国水災同情会の会長として義援金を募ったりなど、生涯を通じて寄付活動を実践しました。そうした活動が評価され、1926年、1927年と2年連続でノーベル平和賞の候補にもなっています。

 このように、膨大な事業に関与した渋沢氏の業績は、現代の尺度では想像もできないような規模感なので、すべてをつぶさに見ていくのは難しくもあります。代表的なところでは、第一国立銀行(現・みずほ銀行)の頭取に就任したのをはじめ、七十七国立銀行など多くの地方銀行設立を指導したことが挙げられたりするのですが、それ以外にも数々の企業の立ち上げに携わっているのです。
 一例を挙げていきますと、東京瓦斯(東京ガス)、東京海上火災保険、王子製紙(現・王子製紙/日本製紙)、田園都市(現・東京急行電鉄、東急不動産など東急グループ)、秩父セメント(現・太平洋セメント)、帝国ホテル、秩父鉄道、京阪電気鉄道、東京証券取引所、キリンビール、サッポロビール、東洋紡、大日本製糖、明治製糖などなど、渋沢氏は、非常にバリエーションに富んだビジネスに携わってきました。それらは現代の実業界でも存在感を放っている著名な組織が多く、渋沢氏の影響力の大きさを改めて思い知らされます。 実業界だけではありません。日本赤十字社、聖路加国際病院、東京慈恵会、一橋大学、早稲田大学、二松学舎大学、日本女子大学といった機関の設立や初期の運営に関わるなど、医療や教育の分野でも数々の業績を残しました。

 そんな渋沢氏の活動の根幹を成しているのが「道徳経済合一説」に代表される、儒教の精神性に基づいた考え方です。詳しくは次回以降解説していきますが、渋沢氏は経済活動、政治活動において儒教的な価値観が不可欠であると説いています。片手にそろばん、片手に論語──そんな世界観で語られる渋沢氏の言説は、私利私欲に走ってしまいがちな人間の愚かさを戒め、仁義や礼節といった道徳を重んじ、得た富は社会や人々に還元してこそ価値を持つのだ、という姿勢で貫かれているのです。
 さて、含蓄のある言葉を数多く残している渋沢氏ですが、今回は「成功」について語った一節を紹介しましょう。
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 人を見るときに、単に成功したとか、失敗したとかを基準にするのは、そもそも誤っているのではないだろうか。
 人は、人としてなすべきことを基準として、自分の人生の道筋を決めていかなければならない。だから、失敗とか成功とかいったものは問題外なのだ。かりに悪運に助けられて成功した人がいようが、善人なのに運が悪くて失敗した人がいようが、それを見て失望したり、悲観したりしなくてもいいのではないかと思う。成功や失敗というのは、結局、心をこめて努力した人の身体に残るカスのようなものなのだ。
(渋沢栄一/守屋淳・訳『論語と算盤』より)
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漆原 直行

うるしばらなおゆき




1972年東京都生まれ。編集者・記者、ビジネス書ウォッチャー。大学在学中より若手サラリーマン向け週刊誌、情報誌などでライター業に従事。ビジネス誌やパソコン誌などの編集部を経て、現在はフリーランス。書籍の構成、ビジネスコミックのシナリオなども手がける。著書に『ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない』、『読書で賢く生きる。』(山本一郎氏、中川淳一郎氏と共著)、『COMIX 家族でできる 7つの習慣』(シナリオ担当。伊原直司名義)ほか。

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