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英国の国民投票から考える民主主義の課題

アメリカ「建国の父」たちは民主政の何を恐れたか

■参議院は民主主義の欠陥を矯正できるか

 また、共和国に必要な議会は一院制ではなく二院制であると、マディソンは指摘する。もし、人民を代表する議会が一つしかない一院制であった場合、情念に訴えかける扇動的な働きかけによって党派指導者による有害な決議がなされてしまうかもしれない。だが、二つ目の議会があることで、この危険性に対する予防の力を二倍にし、危機に陥った際に矯正させることができる。

 そのためにも、二つ目の議会である上院に選ばれる人には、より広い見聞と安定した人格が求められる。また、職務を安定して継続させ、その時々の衝動的な世論の動きに左右されないようにするためにも、下院よりも長い任期、もしくは終身の任期が必要となる。
 というのも、歴史上において長続きした共和国は、スパルタ、ローマ、カルタゴのように、富裕な貴族達によって構成される終身の「元老院」を持つ国だけだからである。

 マディソンの考えの背景には、共和国の統治を行えるのは「徳」を備えるほどに賢明な者であり、それは商業に携わらない土地所有者等に限られるとする、18世紀的な共和主義がある。憲法案反対派からは「貴族主義的だ」とする批判が寄せられたように、アメリカ建国の父の一人であるマディソンの考えには、民主主義的ではない要素も多く含まれているのだ。
 だが、民主主義は万能ではないのも確かである。どんな体制の下でも、人間は誤りを犯す可能性があるのだから、その欠陥を補完し、いざという時に矯正できるような仕組みもまた不可欠となるだろう。

 日本では、まもなく参議院議員選挙が行われる。国会は衆議院と参議院の二つの議会があるが、仕組みとしては、この参議院という二つ目の議会があることによって「民主主義の欠陥」を補うことができるようになっている。だからこそ、一票投じる前にはじっくり熟考する必要があるだろう。
 しかし、日本の参議院は、諸外国と比べると「下院」にあたる衆議院との性質の違いがさほど大きくないようにも感じられる。今後、参議院の改革が考えられていく際には、「民主主義の欠陥」を補完するような性質と仕組みを、より強く組み込んでいく必要もあるのではないだろうか。
 

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大賀 祐樹

おおが ゆうき

1980年生まれ。博士(学術)。専門は思想史。

著書に『リチャード・ローティ 1931-2007 リベラル・アイロニストの思想』(藤原書店)、『希望の思想 プラグマティズム入門』 (筑摩選書) がある。


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