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平均寿命は短くなり、山手線の半分は優先席になる。

現在観測 第31回

どこを減らせばいいか?

 さあ、どうやりくりをしようか。誰が見たって、医療費を削減すべきことは自明である。だが、すぐに目につく高齢者の医療から支出してもらおうとすると、そう言う政治家は選挙に落ちる。高齢者はみな選挙に行くから、政治家は高齢者に目を向けた政策を作ることになる。その繰り返しでどんどん医療費は増え続ける。こんな仕組みで、残念ながらここまで来てしまったのだ。筆者が生まれた1980年には70歳以上の人は何回病院にかかっても完全無料だったのに、いつの間にかあとちょっとでpoint of no returnだ。
 さらに医療費増大に拍車をかけるのが「医療の高度化」だ。1ヶ月300万円以上かかる抗がん剤も登場した(オプジーボ®)し、手術で使う機械もどんどん高額化している。iPS細胞の再生医療だって正直いくらかかるかわからないし、誰も議論しない。
 だとすると、あと残る解決策は「医療全体のクオリティを下げる」か「自己負担を増やす」しかない。
「医療全体のクオリティを下げる」を具体的に言えば、入院期間をもっと短くする(手術後は傷が痛いが退院)、医者の給料を安くする(優秀な人材が集まらなくなり医師のレベル低下)、高価な薬を使わない(最新の薬はどれも高いので使えない)といったところだ。
 一方で「自己負担を増やす」と、病院にかかると初診料4万円で風邪だと2万円の計6万円になります、となり誰も風邪では病院には行かなくなるので医療費が減らせる(風邪で医師の診察が必須な場合は殆ど無いため寿命は短くならない)。
 その代わり、今2人に1人がかかると言われる「がん」になった時、「治すためには400万円、3年生きるために200万円、払えない人は6ヶ月のいのちです」となってしまう。つまり「金持ち長生き貧乏早死に」という米国のような社会になってしまうのだ。

 

そろそろ本気で議論しよう

 こんな差し迫った問題があまり人口に膾炙されていないことに、筆者は恐怖を覚える。もちろん厚生労働省の官僚たちは考えているだろう。姥捨か、アメリカか、全員我慢か。
 繰り返すが、政治家はとてもじゃないけどこの辺りのことは言えない。現場の医者だってきっと全員同じことを考えているが、誰も公に発言しない。「医は仁術であって算術ではない」からだ。でも、これまでの医師たちが「医は仁術」でやってきたツケが我々世代に回ってきて、そのうち「コスパ医療」なんて嫌なことになる。
 だけど、そろそろ限界だ。「有識者」や官僚に任せていないで議論しよう、何をとって何を捨てるのかを。

 

脚注
*1 平成 26 年簡易生命表の概況.厚生労働省  
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life14/dl/life14-15.pdf
*2 名目GDP(USドル)の推移(1980~2016年) (中国, 日本).世界経済のネタ帳
http://ecodb.net/exec/trans_country.php?type=WEO&d=NGDPD&c1=CN&c2=JP
*3 国民医療費・対国内総生産及び対国民所得比率の年次推移.厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/13/dl/data.pdf
*4 高齢化の状況.内閣府
http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2015/html/gaiyou/s1_1.html

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中山 祐次郎

なかやま ゆうじろう

1980年神奈川県生まれ。聖光学院高等学校を卒業後、2年間の浪人生活を経て、鹿児島大学医学部医学科を卒業。その後、がん・感染症センター都立駒込病院外科初期・後期研修医を修了。現在は同院大腸外科医師(非常勤)として勤務。参加手術件数は1年に233件(2014年度)。資格はマンモグラフィー読影認定医、外科専門医、がん治療認定医。生と死を見つめて、もがき苦悩する35歳。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「幸せな死のために一刻も早くあなたにお伝えしたいこと~若き外科医が見つめた『いのち』の現場三百六十五日~」(幻冬舎)。


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