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Scene.37 本屋は、どこまでも熱い!

高円寺文庫センター物語㊲

「内山くん、驚きばい!

あの漱石全集な、岩波に電話しよったら『返品、お受けいたします』って、言われたばい。どぎゃんなっとるっとって、聞いたけんが『お歳を召した方の定期購読が多いので、刊行中に亡くなられる事例は少なからずありますので』って」

「そぎゃんこつ、あるとね。

店長『道草』食っとると思ったけんが、受けてくれるのは助かったばいね。『それから』どぎゃんしたと」

「畏れ入ります。

わたし、こういうものなんですが。新刊のプロモーションで、本人を連れてお邪魔させていただきました」

現役バリバリのAVアイドルが、やって来た!

2002年の奈緒様といえば、当時の男子で知らないはずがない超有名AV女優。テレビ番組『11PM』の名物コーナー秘湯の旅で、レポーターを「うさぎちゃん」として大ブレイク!

AV女優としてデビューしたかと思うと、休業して渡米。ヌードモデルとして活躍して日米を股にかけていたが、再び活動拠点を日本に移してAVの仕事を再開していた。

既に何冊もの写真集を出版して、映画はVシネマからピンク映画まで出演。テレビ朝日の『土曜ワイド劇場』などの、ドラマにも出演を重ねていた正真正銘のアイドルAV女優だった。

そんな彼女が、確か版元の社長に連れられて、写真集のプロモーションに来店されたのである。アポもなく、突然のことだったので驚いた!

左様、女神降臨な奇襲攻撃には滅法弱い。リアル奈緒様に対面して、視神経から、麻痺・・・・なにも情報伝達されない脳は、Oh!NO!

テレグラフファクトリー刊、『TOKYO DOLL』。その後、この写真集をどう展開して販売したか。どのくらい売れたのか。そして、彼女はどのようにして去って行ったのか。そんなこと、冷静に覚えていられるほど石部金吉ではない。当時34歳。色香の極みに駆け上りつつあった、比較的大人しめのファッションとはいえ、差し出された写真集の表紙はご機嫌にセクシー!

「エロティイシズムとは、死に至る生の高揚」と喝破したのはジョルジュ・バタイユ。その瞬間に、筋斗雲に乗ってしまった!

後日、彼女からは至極丁寧な御礼メールが届いた。折り返せば、さらに鄭重な返信がありとメールを重ねるうちにお互いのルーツが神保町ということがわかって、心許してくれたのか10日ほどの間に、濃いメールを交わすようになっていた。

 

「店長! あんたバカ?!」

「店長。なにやってんすか? って、なにもやってないのか!」

「ゲゲゲ、バカかな・・・・」

「一生、後悔しますって!」

 
 
 
 
 
 
 

 

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のがわ かずお

1951年 東京生まれ。書泉を経て、高円寺文庫センター店長。その後、出版社のアートン・ゴマブックス・亜紀書房顧問。本屋B&B、西日本出版社などにかかわる。 温泉とプラモデルと映画を、こよなく愛する妖怪マニア。共著『現代子育て考5.男の子育て』(現代書館)、『独断批評』(第三書館)。


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