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ベストセラー『残念な教員』にみる、教育界の危うさ

新年度シーズン必見! 混迷する教育現場の原因を探る 2/5

鈍感な教師の何が悪いのか

「鈍感」についてはあとで私見を述べるが、とりあえず皮肉をいわせてもらえば、教員の50パーセント以上が(生徒より)鈍感だとすれば、教師たちは林氏のプロフェッショナルな教師としての優秀さにきづかないだろう。そして、仮にそのことにづいたとしても、〈道徳の面でも劣っている〉からがんばって氏の優秀さを学ぼうなどと考えもしないだろう。氏の自負と日本の教育への情熱は空振りに終わる可能性大である。
私は林氏の現場での実態は見たことがないから、書いていることを採り上げて吟味するしかない。ここから真摯に氏の言説を分析してみよう。

氏は最初の決意表明のような部分で、〈成長〉という言葉を二回使っている。〈生徒の成長という「結果」を重んじるスタンスで教育活動を行っている〉と、〈日本中の生徒が大きく成長できることを願ってのことだ〉である。けっしてイチャモンでなく、私にはここの「成長」の意味がよくわからない。成長という表現はごく一般的に使われ、動植物が大きくなることにも、子どもが一人前になっていくことにも、あるいは、人格的に立派になっていくことにも使われている。どちらかというと、「自然」的な意味で使われている。そのモノ(ひと)の本質に従って、成体になっていくイメージである。つまり、教育という「作為」による働きかけの結果(成果)として「成長」するとはあまりいわない。

完璧な教師が求めるものと、生徒たちの現実

おそらく、林氏の「成長」には学力や成績の向上が入っているのではないかと思うが、一般に生徒の学力(成績)が成長したとはいわない。「いやぁ、今度のテストでうちのクラスは成績が成長してねぇ」などとはいわない。「成長」はその個体(個人)が自らの本質に沿って(もちろん、誰かや何かに支えられて)「していく(してしまう)」もので、「させる」ものではないといったらおわかりになるだろうか。林氏が「成長」という言葉に教育の成果のエッセンスを込めていることはよくわかるが、言葉としてはあまりにもゆるく茫洋としている。

林氏は〈筆者が(教員たちを)「残念」と評する理由はただ一点、「生徒を成長させない」という意味においてである〉と大見栄を切っている。先に書いたように、「成長」はモノやひとに内在する本質だから、誰かに止めることはできない。ましてや、教師に〈生徒を成長させない〉などという離れ業はできない。どんな形であれ、生徒は良くも悪くも「成長」していってしまう。「成長」とはそういうものである。

                   <『尊敬されない教師』より引用>

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~プロフィール~

1941年千葉県生まれ。「プロ教師の会」名誉会長。作家。東京教育大学文学部卒業。埼玉県立川越女子高校教諭を2001年3月に定年退職。「プロ教師の会」は、80年代後半に反響を呼んだ『ザ・中学教師』シリーズ(宝島社)をはじめとして、長年にわたり教育分野で問題提起を続けている。著書に『なぜ勉強させるのか?』『間違いだらけの教育論』(以上、光文社新書)、『オレ様化する子どもたち』『「プロ教師」の流儀』(以上、中公新書ラクレ)など。


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