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ブータン国内にある書店の数はたった10店ほど 幸福の国ブータンのベストセラーとは?

世界の書棚から 第1回 ブータン

毎回、さまざまな国のベストセラーを現地よりレポートしていく本連載。記念すべき第1回は日本でも幸福の国として知られるブータン。そこではいったいどんな本が読まれているのでしょうか。聞けば聞くほど、興味深いブータンの書店事情とともにご紹介します。

まず初めにブータンにはまだまだ書店の数は少なく、国内ほぼすべての書店が首都のティンプーの中心街に集中しています。年に数回、書店がブックフェアと称した催しを地方都市で行い、若者を中心とした読者に対応しているという状況の国です。

 

ブータンではほとんどの本が英語で書かれている

またブータンの国語は「ゾンカ語」というチベット語系の言語ですが、書店に並んでいる本は9割以上が英語で書かれたものです。ブータンでは小学校からゾンカ語のクラス以外は英語で学校教育が行われているため、僧侶やゾンカの専門家でない限り自由自在にゾンカの書物を読みこなせるとは言い難く、それが書店の品揃えにも影響しています。若者たちは母語ではなく英語でラブレターを書くという、少々かわった国で、母語で愛が語れないなんてなんだか気の毒に思えることもあります。

余談ですが現在ブータンで一番著名な日本人作家は村上春樹さんで、代表作のほとんどを手に入れることができます。あ、もちろん英語版ですが。

 

ブータンの首都ティンプーにある本屋さんは約10店。これが国内の書店数とほぼ一致しています。ブータンで読まれている書籍のほとんどは英語で書かれたもので、シェイクスピアも村上春樹も手塚治虫の「ブッダ」も英語で読まれています。

 

お店によって異なるベストセラー

ベストセラーは、お店によって異なるのが特徴です。例えば古株書店メガでのナンバーワンは「I am Malala」。学生から大人にも人気の売れ方だそうです。

 

 

売れる本は書棚にある本!?

開店からすでに四半世紀という老舗書店「ペカン」はといえば、10歳から15歳くらいの子供向けの本とSidney Sheldon、Danielle Steelの小説がトップの座を争っているそうです。

「どの作品が一番売れますか?」の私の質問に、オーナーは「入荷数が限られ入荷の時期も在庫も安定しないブータンでは、書棚にある本が売れるんだよ。児童書とこの二人の作家ものなら何でも売れる!」と。「君だって好きな作家の作品なら何でも読むだろう?読みたいときは入荷まで待ってなんていられないだろう?」と。なるほど。

 

 

隣国の悲劇が描かれたベストセラー

開店して5年の店内にファンシーショップを併設した「ブックワールド」。客層をにらんだGeronimo Stiltonの「The Kingdom of Fantasy」のシリーズがずらりと並んでいますが、現在のトップはAndrew Duffの「*SIKKIM」。これはブータンゆえのベストセラーですね。

 
 

 
*SIKKIM
ヒマラヤの小さな独立王国シッキムが、大国の冷戦に翻弄され1975年、ついにインドへ併合され消滅するまで。シッキム最後の国王とその妻であったアメリカ人女性の劇的な人生を絡め実話をベースに書かれた王国消滅迄のお話。
ブータン現国王のお祖母様はシッキム王家の血族の方でもあり、同じような歴史習慣を持つ小王国ブータンにとっては、このシッキム王国滅亡は、忘れることのできない悲劇でした。この、他人事ではない燐国のあっけない滅亡はブータンに多くの教訓を残したと言われています。

 

本と一緒に仏具を販売

出版も手掛ける「KMT書店」は店内には仏具も並ぶユニークなお店。こちらのベストセラーは堂々「*DOMANG」。仏教経典の代表がトップというところは、仏教王国のゆえんでしょう。

 

 

 
*DOMANG
仏陀の教えと仏教哲学の集大成、経典。
ブータンの仏教徒の家庭にはたいてい常備してある一冊。

このように、書店の少ないブータンではそれぞれが専門書店の性格を持ち、それを顧客が上手に使い分けているようです。

 

 

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青木 薫

あおき かおる

ブータン在住17年。1992年ブータン初訪問。1999年よりティンプー在住。

2000年、ブータン人の夫と旅行会社シデ・ブータンを立ち上げ、観光・メディア取材・調査受け入れのコーディネート業務を開始。

ブータン国内で最も多くのメディア受け入れ経験をもつ。

ブータンの日本語ガイドの質の向上をめざし2006年より本格的に日本語ガイドの養成を始め、民主化後の2010年、ブータン初の日本語専門教育機関「ブータン日本語学校」開校。

現在では観光業従事者だけでなく、日本への技能研修生や留学生の日本語教育も担っている。


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