【トランプの安倍に対する評価】

 結局、トランプ自身が自分でイラン開戦を命じたが直前に中止した、とリークしましたが、そこでは仲介者としての安倍の名前に全く言及することもありませんでした。ここまでくると、安倍と日本の外務省にはイランとアメリカ、あるいはトランプとハーメネイの仲介をする能力がないだけでなく、トランプも安倍がイランとの仲介を本気で期待していなかったことはもはや明らかで否定の余地はありません。しかし安倍のイランとアメリカの仲介の失敗について正当に評価するためにも、イランとアメリカの直近の動きを知っておかねばなりません。

 先ず、安倍が13日にハーメネイと会った翌14日、ローハーニー大統領はキルギスのビシケクで行われた上海協力機構にオブザーバーとして参加し、アメリカが核合意から一方的に離脱したことを批判し、ロシアのプーチン、中国の習近平と会談し、イランへの指示を取り付けています。

 アメリカと40年にわたって敵対し、トランプも信用しないイランの対米政策は、国連常任理事国でありアメリカと軍事的に対抗しうる中ロを後ろ盾にしてアメリカとの対決路線を堅持することであり、アメリカの庇護国に過ぎないにもかかわらず身の程知らずにもイランとアメリカの40年の確執も知らずに能天気で場違いな仲裁を申し出てきた日本の宰相など端から眼中になかったのです。

 一方、トランプはイランとのチキンレースを華々しく続ける一方で、ロープロファイルで6月25-26日とバハレーンのマナマでトランプの娘婿クシュナー上級顧問主宰でパレスチナ支援国際会議を開催し、500億ドル規模の経済支援を呼びかけました。これはトランプが大統領就任当初からパレスチナ問題解決の切り札、「究極のディール」、「世紀のディール」として大々的に喧伝してきたものですが、イスラエル一辺倒の内容なために、ハマスは言うに及ばずパレスチナ自治政府からも出席を拒絶され、サウジアラビアとUAEを除くアラブ諸国からも不公平であると批判され、完全な失敗に終わりました。

 アメリカとイランの確執は、イラン・イスラーム革命後の国交断絶から40年の歴史、いや1953年のCIAの陰謀によるモサディク政権打倒にまで遡る深い因縁があります。トランプの対イラン政策も基本的にその枠組の中で行われています。しかし、特殊トランプ的なものもあり、それがユダヤ人の娘婿クシュナーによる親イスラエル、イラン敵視政策です。

 前のオバマ政権時代、イスラエルの「極右」ナタニヤフ政権は世界から見捨てられ始めていました。ところが2016年12月に、イスラエルによるヨルダン川西岸への入植拡大に対し、慣例に反しオバマ政権のアメリカは拒否権を発動しませんでした。そのため、国連安全保障理事会の非難決議が選択されました。

 

【そもそもトランプがイランを敵視する理由】

 これに対して危機感を強めていたナタニヤフ政権は、ユダヤ人のクシュナーを通じて、トランプ政権に従来のアメリカの新イスラエル政策を極端に推し進めさせることに全力を尽くすようになります。トランプ政権が2018年5月に在イスラエル米国大使館をエルサレムに移転させたばかりか、2019年には1967年の第三次中東戦争以来イスラエルが占領していたシリア領ゴラン高原にイスラエルの主権を正式承認しました。

 実のところ、アメリカのイラン敵視の相当部分は、イランとアメリカの二国間関係ではなく、イランを敵視するイスラエルに引きずられています。このことは、中東地域研究者の間では常識ですが、一般にはあまり知られていないので、簡単に説明しておきましょう。

 1979年のイラン・イスラーム革命はイラン一国革命ではなく、世界革命を目指し、「反植民地主義、反シオニズム、親パレスチナ、第三世界主義などのような「革命の輸出」路線を取りました。1980年代半ばにはイラン・イラク戦争に疲弊したイランは革命の輸出路線を事実上放棄しますが、一貫して堅持したのが、反シオニズム・新パレスチナ政策です。

 イランの革命輸出は、一般に「テロ」支援として西側先進国には評判が悪く、イスラーム世界の内部でさえ党派性が強いシーア派の教宣活動とみなされ疑惑の目で眺められていました。ところが「反シオニズム、親パレスチナ」だけは、アメリカを除く「国際社会」から「テロ支援」の非難を蒙ることなく公然と活動できる領域として、イランにとって革命のシンボル的意味を持っているのです。

 しかもイランのイスラエル国家殲滅を公言する反シオニズムは口先だけのスローガンにとどまらず、イスラエルと接し何度も戦闘を繰り返してきたイランの革命防衛隊と密接な同盟関係にあるレバノンの軍事組織ヒズブッラーを通じて、イスラエルに「現実的な脅威」を与えています。革命の前のムハンマド・レザー・シャー国王体制が「ペルシャ湾の憲兵」と呼ばれ、中東の利権を護るアメリカのエージェントであっただけでなく、イスラエルとも軍事・諜報活動で密接な協力関係にあったことを考え合わせると、イスラエルのイランに対する敵意、恐怖、怨念も理解はできます。

 トランプのイラン敵視は、従来のイランとアメリカの敵対関係より、遥かにイスラエル要因が強いものです。それゆえトランプ政権下のアメリカとイランの仲介をするには、パレスチナ問題について、文字通りの「ネポティズム(身内贔屓)」に基づく露骨なイスラエル政策を採るトランプの機嫌を取りつつ、イラン革命の反シオニズム・親パレスチナの大義に寄り添うというアクロバットを演じなければなりません。日本の暗愚な宰相にできる芸当ではないでしょう。