MMTとは、「自国通貨を発行する政府は、高インフレの懸念がない限り、財政赤字を心配する必要はない」という理論。これに反対する反MMT論者が出揃ってきた感がある。
 そして、7月の参院選の焦点ともなっている「消費増税問題」から、政府が目的とする「財政赤字の健全化」までをも議論にする、1本串刺しにした理論として依然注目が高まっている。
 と同時に米国同様、日本でも議論は大混乱。
 なぜこんな大騒動になってしまったのか?
 何が正しいのか? 誰が正しいのか?
 そんなMMT理論を唯一分かりやすく紹介した書として話題沸騰中の『目からウロコが落ちる  奇跡の経済教室【基礎知識編】』の著者・中野剛志氏がその混乱した議論の行く末を案じ、緊急寄稿した。

■MMT(現代貨幣理論)を巡る騒動は、いっこうに収まる気配がありません。

中野剛志氏。

 よくご存じない方のために簡単に説明しますと、MMTとは、「自国通貨を発行する政府は、高インフレの懸念がない限り、財政赤字を心配する必要はない」という理論です。
 もし、このMMTが正しいとすると、デフレの日本は、財政赤字を減らす必要はないということになり、消費増税の根拠が吹っ飛んでしまいます。

 財務省がMMTに神経質になるのも、当然でしょう。
 朝日新聞も、「「MMT」に気をつけろ! 財務省が異端理論に警戒警報」と、うれしそうに報じていました。

https://www.asahi.com/articles/ASM4T6F03M4TULFA04G.html

 財務省の「警戒警報」というのは、4月17日の財政制度等審議会の資料のことです。

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia310417/01.pdf

 この資料は、一ページ目で、財政赤字は、「将来世代へのツケ」だと警鐘を鳴らしています。さらに、57ページから60ページまでを見ると、世界の著名な経済学者や政策当局の幹部など、総勢17人によるMMTに対する批判のコメントが、ずらりと並んでいます。中には、ツイッターのつぶやきまであります。よくもまあ、こんなに精力的に集めてきたものです。

 こんな凄い資料を見させられたら、普通の人は「なんか、MMTって、胡散臭いな。やっぱり、将来世代へのツケを残しちゃいかんから、消費増税もやむを得ないよなあ」という印象を持つでしょう。
 ところが、よ~く見ると、この財務省が頑張って作成したMMT批判の資料には、実に、不可解な点があります。というのも、この資料に載っているMMT批判者の中には、財務省が全力で否定したくなるような主張をする者が、何人も含まれているのです。

 例えば、クリスティーヌ・ラガルド(IMF専務理事)がその一人です。
 ラガルドは、MMTについて「「数学モデル化されたのを見ると魅力的で、有効であるように受け止められる」とコメントし、「ある国が流動性の罠(わな)に陥ったり、デフレに見舞われたりするなどの状況下では、短期的には効果的かもしれない」との見方を示した」(2019年4月12日 ブルームバーグ)のです。

 日本はデフレですから、「MMTは、今の日本には効果的かもしれない」とラガルドは考えているということになります。他にも、ロバート・シラー(イェール大学 経済学者)は、2013年に、始まったばかりのアベノミクスへの評価を問われて、こう答えていました。

「最も劇的だったのは、明確な形で拡張的な財政政策を打ち出し、かつ、増税にも着手すると表明したことだ。日本政府は対GDP(国内総生産)比で世界最大の債務を負っているので財政支出を批判する人が多いが、ケインズ政策によって最悪の事態が避けられてきた面もあるのではないか。一方で、安倍晋三首相は消費増税も行うと明言しており、財政均衡を目指した刺激策といえる。私は、このような債務に優しい刺激策を欧米も採用すべきだ、と主張している。

現在、米国では拡張的な財政政策を提案しても政治的に阻止され、困難な状況にある。「増税」という言葉は忌み嫌われている。世界中で財政緊縮策が広がる中で、日本の積極策がどういう結果になるか注目している。」(2013年10月17日 東洋経済インタビュー)

 シラーは、消費増税に賛成してはいますが、同時に、積極的な財政出動にも大いに期待してもいたのです。