■母の背中の痛みの正体は…

 ある日、母が尋常でない様子で、背中の痛みを訴えた。

 それまでの母はまだ身体を起こせていたが、このときは身体を起こすこともできず、苦痛に顔をゆがめている。ちょっと触っただけで、悲鳴を上げそうなくらい痛がる。これは一大事だと救急車を呼び、タンカで病院へ連れて行ってもらった。

 検査の結果、母の背中の痛みは、背骨へのがんの転移が原因だと判明した。

 いわゆる「背骨」は、首のほうから、頚椎(けいつい)、胸椎(きょうつい)、腰椎(ようつい)、仙椎(せんつい)、尾骨(びこつ)と、いくつもの骨が縦に連結してできている。母の場合は、がんが転移したことによって胸椎のひとつがモロくなり、つぶれかけているのだという。背中の痛みは手術で切ったからではなく、悪い奴らに背骨がむしばまれていたからだった。

 救急車に母を乗せた時点で悪い予感しかなかったが、もうぼくにはどうすることもできない。このまま普通に生活していると、骨が本当につぶれて下半身不随になる恐れもあるから、しばらく入院して寝たきりの状態が続くと説明されたが、それよりも骨にがんが転移したという事実のほうがショックだった。

 母の病気については、それなりに書物やネットで調べていたから「骨転移(こつてんい)」が何を意味するのか、がんのステージがいくつなのかといった基礎知識は持っていた。ついにこの日が来てしまったかと、先のことが考えられなくなった。

 

 病状の進行は人それぞれで、必ずしも骨転移イコール末期というわけではないので、誤解する人がいるといけないが、このときのぼくはそんなふうにしか受け止められなかった。

 悪いことは不思議なほど連鎖する。

 母の寝たきり入院生活が始まって数日後、今度は父の入所する特養から、夜に電話がかかってきた。

「お父さまが倒れました。今、**病院へ救急車で搬送していますので、そちらへ向かってください」

 なんてこったい。ちょうど母の病院から付き添いを終えて、自宅へ帰ってきたばかりのタイミングだった。急いで自転車に飛び乗り、指定された病院へ向かった。

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