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万国共通の愛情表現「キス」。その絵文字・顔文字にも文化の違いがこんなに出る

絵文字進化論第5回

■英語圏のxxやxoxoの意味は?

 英語圏にもキスにまつわる独特な文字表現があります。

 メールやメッセージの最後にxやxxxxといった謎の文字列を見かけます。これらのxも「キス」を表しているのです。ポルトガルの * と同じように、一個ですと一つのキスx=kiss、複数ではxxxx=kissesになるという具合です。

 このxxxxはいかにも現代的なスラングに見えますが、実はxで「キス」を表す習慣は、少なくとも18世紀まで遡ることができます。オックスフォード英語辞典でxを引くと、一つの意味として「特に手紙の結びにおいて、キスを表すのに用いられる」とあり、1763年から20世紀後半にかけていくつかの例があげられています。中には、1894年にウインストン・チャーチルが母親宛てに書いた手紙もありました。

   Please excuse bad writing as I am in an awful hurry. (Many kisses.) xxx WSC.
(出典:R. S. Churchill“Winston S. Churchill”  1967)

 これが意味するのは、19世紀には、有名な政治家までxxxを使いこなしていたという事実。「手紙の結びに書かれる」「xの数でキスの数を示す」という点がポルトガルの*と共通していますね。

 このxの由来については、形がキスに似ている、x[eks]と [kiss]は発音が近い、など様々な説があります。一番強力な説によれば、xで「キス」を表す習慣が、文字が書けない人が手紙や契約書の最後に署名代わりに十字の形を書いて、その十字に誠意の証としてキスをしたという因襲に由来するものだそうです。手紙の最後にxを書いて、その箇所にキスする。この二つの行動が一体化して、x=キスとなったという流れです。(出典: “A whole lot of history behind ‘x’ and ‘o,’ kiss and hug” The Washington Press, 2014年2月14日)

 では、xoxoはどうでしょうか?

 xはキスということを先ほど分かりましたが、oはいったい何者なんでしょう。
 xoxoはhugs & kisses (ハグとキス)と読まれますが、oは腕を丸くしてハグする姿を表しているそうです。これは言われなければ、なかなか思いつかない発想ですね。ちなみに、英語ネイティブの間でも、xとoどれがキスでどれがハグか、迷う人も少なくないようです。xは腕を交差させてハグしているように見えて、oは唇を丸めてキスしているように見える、という意見もネット上で見かけます。

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シャルコ・アンナ

1988年生まれ。ロシア、シベリア地方出身。地元の大学で日本語を勉強し始めたことをきっかけに、日本の文字文化に魅了され、国費留学生として来日。2012年に早稲田大学の大学院に入学して、笹原宏之教授の元で日本語の文字・表記について研究を続けてきた。ポルトガル人と国際結婚して、1歳の息子を子育て中。現在はイギリスに在住。


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