1950~70年代の酒の味わい深さに魅せられる 

 鴨川の西、人とすれ違うのにも気を遣いそうな狭い通りの両側に店が並ぶ先斗町は、江戸時代に歴史をさかのぼる京都五花街のひとつ。昔から続く老舗もあれば、新しい店もあり、顔ぶれはさまざまだが、花街のしっとりとした風情を今も守っている。

 一方、その 一筋西にある木屋町は、ビルにネオンきらめく繁華街。学生やサラリーマンが気安く楽しめる店も多い。先斗町と木屋町、雰囲気のやや異なるふたつの通りの間は、いくつもの細い路地でつながっている。その小さな路地のひとつ「13番路地」にあるのが、お酒を愛する人々が集まるバー『クラブ デゼール』だ。

木屋町通側には「13番路地」の大きな看板があり、路地を見つけやすい。不規則に貼られたタイルが、蛍光灯の明かりを反射している。

 先斗町と木屋町を結ぶ路地には番号がふられており、「13 」と書かれた小さな看板を目印にほの暗い路地に足を踏み入れ、階段をのぼるとクラブデゼールの扉が現れる。 店の中は、優雅にカーブを描くカウンターテーブルに10席のみ。テーブルの内側からのほのかな明かりがグラスを照らす落ち着いた空間だ。ここで、マスターの原野誠司さんと、1950年代の美酒が待っていてくれている。

きれいなオレンジ色のカクテルは、サイドカー(1700円)。アンティークグラスに入った美しい姿にも酔いしれそうだ。

 原野さんがこのバーをオープンしたのは1989年、26歳のとき。それから30年間、カウンターに立ち続けてたどり着いた納得の味が、1950〜70年代のお酒が持つ味わい深さだった。 特にひかれたのは、ウィスキーやブランデー、そしてカクテルのおいしさ。それ以外は置いていない。「滑らかで喉ごしがよく、広がりがあって余韻が長い。ひと口含んだだけで、驚くと思いますよ」

向って右から、ロジェグルーアンセス トレール、ジャンフィユトレビュ、マーテルコルドンアルジャン、カミュエクストラ、クルバジェナポレオン。なか なか入手できないブランデーも味わる。

 お酒が味わい深いので、つまみはほとんどいらないと、生チョコやドライフルーツといった軽いものだけ。まさに、お酒のおいしさに酔いしれるための場所なのだ。

ボディがしっかりしていて、まろやかだが厚みがあるブランデー、ポリニャック ナポレオン(3000円)。フランス、ロワール地方の生チョコ(600円 )は 上品な甘さ。レーズンとイチジク、ストロベリーを盛り合わせたドライフルーツ(900円)。

 そう聞くと、一見さんや、ウィスキーやブランデーの初心者には敷居が高いように感じてしまうかもしれない。だが、その心配は無用だ。ここでお酒を楽しむのに、堅苦しいルールは存在しない。

「お酒の魅力は、人を幸せな気分にすることです。興味があるなら、好きなように飲めばいい。蘊蓄を語るより、 味を求める人が集うのがバー。ストレートでウィスキーを飲まなくても、水割りでも、ソーダ割りでも。おいしく飲まれたほうが、お酒も喜びます」

 おいしいお酒を、おいしく飲む。これがすべて。今夜も原野さんは13番路地で、至福の時を提供している。

CLUB DÉSERT(クラブ デゼール)
住所:京都市中京区木屋町通四条上ル下樵木町200 2F
☎075-221-8496
営業時間:19:00〜翌4:00(日~24:00)
定休日:月曜日
阪急河原町駅、京阪電鉄祇 園四条駅から徒歩約3分
※金額はすべて税込、チャージ無、サービス料10%

※月刊誌「一個人」4月号より抜粋