飲んで食べて会話して、つながりが広がっていく

 ビニールカーテンを開けて中をのぞくと、左手には焼き物を調理中のスタッフ。いい香りが鼻をくすぐる。奥へと伸びる長いカウンターでは、飲み、 食べ、笑い合う人々の姿が。年齢や性別にかかわらず、隣り合う人同士が気ままに会話をしており、どこからどこまでが同じグループなのか分からない。それこそが、ここ『わたなべ横丁』のスタイルだ。

「アジフライ」や「自家製ぬか漬け」「生麩田楽」など、貼られたメニューを眺めて悩んでいると、お客さん同士で 会話が始まることも。

『わたなべ横丁』は京都のメインストリート河原町通と、飲み屋が軒をつらねる木屋町通の間の路地にある立ち飲み屋である・・・という説明だけでは、恐らく店へはたどり着けないだろう。人と車でごったがえす四条河原町の交 差点を北へ上がり、二筋目の細い路地を東に入り、そのまた先を今度は北へとさまようように歩いた先に現れるのが、目的地の『わたなべ横丁』だ。

 店を立ち飲みスタイルにしたのは、 店主の渡邊周さん自身の体験から。約15年前、渡邊さんが足繁く立ち飲み屋に通っていたところ、店の人に誘われ働き始めることに。その後、自分でも店をやってみたいとの思いが強くなり、ついにこの店を開いたのだという。

「盛り上がって、お客さんがひとつになる瞬間があるんです。そんなとき、お店をやっててよかったなと思います」と店主の渡邊さん。

 目指したのは、立ち飲みカウンターとソファ席があるスペインバルのような店。 店のテーマは、〝コミュニティー〟 。店を訪れた客同士がつながりあえるのが立ち飲みの醍醐味と考える渡邊さんは、 初めて来た客にも〝つながり〟を感じてほしいと語る。そのため、スタッフが率先して話題を振り、客同士が気軽に話せる雰囲気を作るという。

「見ず知らずだったお客さんが、やがて一体となっているのを見るのが何よりうれしい」と渡邊さん。 そんな心づかいで、店は初めて訪れる一人客でも楽しめる雰囲気に満ちている。

左/素チューハイ(300円) は甲類焼酎の「大樹氷」を使用するのもこだわり。 右/菜の花とほたるいかの酢みそあえ(450円)、どて煮(480円)、マグロの造り(580円)。 造りには渡邊さんの出身地・福井の甘めの醬油が添えられる。

 会話が弾む工夫は、メニューにもある。 壁一面に貼られたメニュー札の中に、 気になるものを発見した。その名も「ガリガリチューハイ」。アイスの「ガリガリ君」が1本そのまま入ったインパクトがあるビジュアルをきっかけに、「何を飲んでいるの?」と会話が広がることも。「ガリのチューハイ」もまた会話が弾みそうだ。

 会話が弾むと、お酒も進む。こちらは「一本義」(一本義久保本店)、「黒龍」など、渡邊さんの出身地・福井の日本酒も常時5種類ほど用意されている。 酒好きに飲んでもらいたいと用意しているのが、何も加えない「素チューハイ」。これならどんな料理にも合わせやすくておすすめだ。

 カウンターに身を預け、偶然居合わ せた人との会話を楽しむうちに、京都の夜はどんどんと更けていく。

わたなべ横丁
住所:京都市中京区紙屋町357-1
☎075-708-5876
営業時間:18:00~翌2:00
定休日:月曜日
阪急河原町駅、京阪本線祇園四条駅から徒歩約5分

※月刊誌「一個人」4月号より抜粋