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「女の子だってヒーローになれる」『HUGっと!プリキュア』が提示する新しい価値観

アニメといえばいまだにガンダムかエヴァな人のためのアニメガイド

■大人になっても響き続けるメッセージ

 母親だけでなく、本作の大人たちは皆、心に弱さを抱えています。そして、心の弱さを突かれて「オシマイダー」という怪物に変身させられて、プリキュアたちに襲いかかるのです。しかし、プリキュアたちと交流する中で、立ち直り、前向きな気持を取り戻していきます。

 HUGプリは、ジェンダーや多様性の問題に深く切り込んでいる意味では先進的な思想を表現した作品ですが、本当に大事なのはそこじゃありません。

 はなが変身するプリキュアは「キュアエール」という名前で、みんなを応援するプリキュアです。でも、はなはよく言います。「フレフレみんな! フレフレわたし!」と。他人を応援するだけじゃなくて、自分で自分を元気づけるんです。大人だって、上手くいかないことがあれば、とかく他人のせいや社会のせいにして逃げてしまうことがあります。でも、壁にぶつかってへこたれそうになった時、近くに応援して支えてくれる人がいることや、それ以上に自分が自分の味方になって応援することが大事なんです。

 はなの夢は「超イケてる大人なお姉さん」になること。でも、ドジでおっちょこちょい、周りの仲間と比べて特別な才能もないことに劣等感を感じることもありました。ところが、第48話の最終決戦で気づきます。「私の、なりた私。それは、誰でもない、自分で決める事だったんだなって」と。「こうあるべき」という生き方にしばられることはない。自分の生き方や「なりたい自分」の姿は自分で決めれば良いし、誰に何を言われても、自分で自分を応援していけば良い。ジェンダーや多様性をテーマにしたエピソードは、そんなメッセージを伝えるための一環だったのではないでしょうか。

 

 佐藤順一監督は最終回放送後にTwitterでこんなコメントをつぶやいています。

「一年間、子どもたちに届けたいものをたくさん込めました。それがどくらい届いたかがちゃんと分かるのは15年とか先。それは「どれみ」などで実感した事で、セリフや物語は忘れてしまっても届けたいものは届く。『HUG』でも、何かがひとつでも届いていれば嬉しい事です。」

 たしかに、HUGプリに込められたメッセージと思想は、子供たちがすぐに理解できるものではないかもしれません。でも、HUGプリを見た幼い女の子がやがて成長して「女なんだからこうあるべき」という価値観にぶつかった時、あの時プリキュアであんなことを言っていたなと思い出して「なりたい自分」になるために壁に立ち向かっていったとしたら……。子供を身籠って、出産、育児を経験していく中で、HUGプリをふと思い出し、母親としてのあり方の参考にしたら……。たとえ今すぐに理解できなくても、メッセージと思想はしっかりと伝わっていくはずです。

 プリキュアは、幼い女の子だけが楽しめるものでも、美少女アニメが好きないわゆる「大きなお友達」が楽しむためだけのものでもなく、全ての大人たちの心に響く作品です。それだけじゃなく、子供たちが大人になってからも、響き続ける作品と言えるでしょう!

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小鹿 雪

こじか ゆき

文筆家。アニメやアニメに関わる物事について、思ったことを書いていきます。


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