■気難しい雄町をてなずける、ダイナミックな女性杜氏

 岡山県発祥の酒米「雄町」は〝オマチスト〞という言葉を生むほど、偏愛する日本酒ファンが多いことで有名だ。雄町だけで仕込んだ日本酒が日本全国から集結する「雄町サミット」も毎年開催されている。人気と同時に、雄町は酒造りが難しい酒米としてもよく知られている。

 そんな雄町の世界に彗星のようにひとりの女性杜氏が現れた。それが結城酒造の浦里美智子さんだ。初めて仕込みを担当した翌年、平成25BY(醸造年度)の「結ゆい」が雄町サミットで優秀賞を獲得し、それから5年連続受賞という快進撃を続けている。

「雄町が難しいなんて全く知らなかったのでかえって大胆にできたのかもしれないですね」と言って、アハハハと大声で笑い飛ばす美智子さん。エネルギッシュでパワフル、大らかな人柄はまさに雄町の女神と呼びたくなる。

 結城紬(ゆうきつむぎ)で知られる結城市は関東でも歴史の古い城下町。ここで酒蔵を営む結城酒造もまた古い造り酒屋である。母屋と酒蔵が繋がった木造の建物では今年も酒造りの真っ最中だ。酒造りを行うのは社長の昌明さん、美智子さん夫妻と昌明さんの弟の宜明さんの家族3人。石高は去年が260石、今年は300石を目指したいと意気込んでいる。杜氏はお嫁さんの美智子さん。今では女性杜氏も珍しくないが、跡継ぎではなく蔵に嫁いだ女性がなることはほとんどない。つまり彼女が酒造りを行うことになった顛末はちょっとしたシンデレラストーリーでもあるのだ。

 美智子さんがお嫁に来た時は義父が酒造りを行い、地元の冠婚葬祭などで出される普通酒を中心に造っていた。しかし段々と大手の酒に押されて経営は厳しくなっていたという。美智子さんは当初、家業として蔵の作業を手伝っていたものの酒造りには関わっていなかった。実はお酒は好きでも日本酒はあまり飲んだことがなかったそうだ。ところがある日、当時としては珍しく吟醸酒を仕込んだので、その搾りたてを味見する機会があった。

「なんて美味しいんだろう!」

 吟醸酒の美味しさに衝撃を受けた美智子さんが日本酒の扉を開いた瞬間だった。それからはいろんな日本酒を飲み比べたという。本来ハマればどんどん突き進むタイプである。日本酒にのめり込んだ美智子さんは、やがて酒造りにも積極的に加わるようになる。ちょうど結城酒造は、経営的にも何か新しい手を打たなければいけない時期に差し掛かっていた。美智子さんも何かしなければという思いがあった。

「価値のある日本酒を造らないと生き残っていけないと思っていました。でも義父には安い酒でなければ売れないと言われてしまって…」

 そんなことでモヤモヤしていた時に第2の転機が訪れる。子供が保育園に入るタイミングで茨城県産業技術イノベーションセンターから酒造研修の案内が届いて、「やってみたい」と美智子さんは即座に手を挙げた。昌明さんは快く送り出してくれたという。研修を終えて蔵に戻り、雄町で酒を1本仕込んでみると、これが評判も上々。2014年の「雄町サミット」に出品したところ、みごとに優秀賞を受賞してオマチストたちを驚かせた。