■若き蔵元の情熱から復活を遂げた老舗蔵

 奈良県の三輪は、酒造りの神として信仰される大神(おおみわ)神社や、実在する日本最古の杜氏を祀る活日(いくひ)神社が鎮まる地。かつては何軒もの造り酒屋が軒を連ねた酒造りの聖地だったが、現在、この地に残る酒蔵はたった一軒。それが万治3年(1660)創業の今西酒造だ。

 350余年の歴史を誇るこの老舗蔵を14代目蔵元となる今西将之さんが継いだのは2011年、若干28歳の時。それ以降、造る酒が酒造鑑評会などで軒並み受賞するなど、破竹の快進撃を見せている。今西さんを支えるのは平均年齢28歳の若き蔵人たち。伝統ある蔵に改革を起こし、日本最古の酒都に新風を吹き込んでいる。

 今西さんは先代の急逝から、何の引き継ぎもできないまま蔵主に就任。将来は実家の蔵を継ぐためにと、あえて他業種へ就職し、経営やマネジメントについての経験を積んでいた矢先のことだった。

「戻ってきた蔵は経営状態も深刻な上、自分が理想とした酒造りとは程遠い状態で、最初は愕然としました」と、今西さんは当時を振り返る。

 先代は多角経営をしていたため、酒造りは職人に任せきり。当時は効率重視の酒造りが優先されていたという。

「そんな酒がうまいはずがない。しかし、当時の自分には酒造りの技術も知識も何もなかった。現状を打破するためには、酒造りの現実を知るしかありませんでした」

 経営的に厳しかったことから酒蔵へ修業に行く時間は作れない。その代わり、時間を割いては全国の銘醸蔵を渡り歩き、酒に関するあらゆる本を読み、必死に「いい酒造りとは何か」を学んだ。そして、導き出した答えは、〝酒造りの各工程にどれだけこだわれるかで味わいが決まる〞ということだった。

 

 量産はせず、質を高めていく。効率を一切無視し、ひと手間もふた手間もかけた酒造りを行うこと。それを肝に銘じて、蔵の改革を英断する。

 各地の酒蔵で学んだことを活かし、大掛かりな設備投資を決行。築170年の蔵は天井や梁に防虫・防腐効果のある柿渋を施して衛生状態を徹底した上で、温度コントロールできるサーマルタンクを含む醸造タンクや洗米機など設備面を一新した。小仕込みをするためには全国屈指の最新設備に入れ替えた。それと同時に杜氏制を廃止し、ともに働く蔵人は今西さんと同じ価値観を共有できる人材を社員として採用。そして、〝チームみむろ杉〞が誕生した。

「設備を整えたのは楽をするためじゃなく、各醸造工程のパフォーマンスを最大限に高めるために必要不可欠だったから。そして、僕らは本物の酒造りを目指して動き出したんです」