今日の中東問題の一つとして、シリア難民問題というものがある。近年大量に押し寄せてきたシリア以外にも、古くからパレスチナからの移民を受け入れてきた、レバノンという国。しかしその裏で、この国を出て、他国で移民となるレバノン人が数多くいる。貧しい難民を大量に受け入れながらも、優秀な自国民は他国へアウトバウンド移民として出て行ってしまう。移民・難民・国民という言葉が、モザイク模様に散りばめられた国の首都、ベイルートを、社会学的に考察すると。

ベイルート・アメリカ大学

 

 レバノンの首都・ベイルートから、世界にその名を知らしめた教育機関、ベイルート・アメリカ大学(American University of Beirut: AUB)。1866年に設立されたこの大学はその後、アラブ世界での最高学府としての地位を保ち続け、今でも世界中から多くの若き才能を惹きつける。

 アドミッション・ダイレクターとしてここで学ぶ若き才能の「入り口」を管理する、サリム・カナーン博士は、この教育機関で学ぶ80か国から集まった、9200人の学生について語ってくれた。

 

 国際性の豊かさが売りのこの大学だが、レバノンが世界に誇る教育機関だけに、約8割の学生はレバノン国籍保持者。だが、モザイク国家・レバノン独特の国籍観として、この国の国籍保持者の多くは、他の国の国籍も持ち、大学生になって初めてレバノンにやってきた学生もいる。残り2割の非・レバノン国籍保持者の半分は、他の中東国出身で、残りは世界中に散らばる。当然、日本人も居る。

 殆どの授業は英語で行われるが、勿論、アラビア語やフランス語で講義が行われる科目もある。興味深い事実として、9200人の学生の約半数が、何らかの形で様々な機関から、返済の必要のない「ファイナンシャル・エイド(学費サポート)」という支援を受けている。正式な「奨学金」という形で、学費、寮費、生活費の全てを支給される学生もいるが、この大学のファイナンシャル・エイドは、親の収入と学生の成績の掛け目で決まる、不気味な資金援助制度だ。例えば、億万長者の親を持つ学生は、相当いい成績を収め続けなければ、口座への振込は即座に打ち切られる。逆に貧民街出身の神童たちは、それなりの成績を保っていれば、確実に資金援助を受ける。勿論このゲームは、頭数ベースでは中間層が最も多く、参加者の多さ故の、熾烈な戦いが繰り広げられているという。

次のページ 優秀な人材は、故郷を離れ世界へ